TOSHI

イレブン・ミニッツのTOSHIのレビュー・感想・評価

イレブン・ミニッツ(2015年製作の映画)
-
キネマ旬報前年度ランキングの、観ていなかった作品のフォローで、外国映画8位の本作がレンタルになっていた。上映が終了してから、「アンナと過ごした4日間」のイエジー・スコリモフスキ監督作である事に気付いて、後悔していた作品だった。
先ず、都会での午後5時から11分間の11人による群像劇という設定が秀逸だ。タイトルから、リアルタイムサスペンスを想像していたが、観ている内に、日常のある11分間というだけの意味なのだと分かる。 
女好きな映画監督に面接される女優、嫉妬深いその夫、刑務所を出たばかりのホットドッグ屋、その息子で仕事の合間に情事をしているバイク便の配達員、強盗を画策する少年等、登場人物の設定も巧妙だ。彼らが交錯し、モザイク状に構成される物語に引き込まれる。
空にある謎の黒点、低空飛行の飛行機、壁の割れ目を這い上がって行く水、割れた鏡など、意味不明の物が醸し出す不穏な空気感にも痺れた。
様々な謎や伏線らしきものが散りばめられ、当然ラストに収束し、何らかの啓示や救済が訪れると思いきや、映画監督に女優が迫られている部屋に夫が突入した時に起こるハプニングにより、ある意味収束するが、謎や伏線は放置されたままで、壮絶な肩透かしに唖然とする。ラストまでは、全てが壮大な前フリという見方もできる。観客が考える意味や必然性をあざ笑うように、全ては日常の偶然のバグだと言い放たれたような気がした。
モニターの中に映されたラストシーンが次第に分割されて行き、一つの黒い染みになる事で、作品世界が一気に相対化されて行くのに唸った。これは世界の終わりの物語ではなく、単に一つの悲劇に過ぎないという暗示だろう。
鑑賞中、過去の群像劇の傑作、「ショート・カッツ」や「マグノリア」を連想したが、両作品のように緻密な脚本で見せる群像劇ではなく、群像劇の体裁を借りているだけで、本質は世界や人生など大した物ではないと挑発する先鋭的な作品だと感じた。80歳近い年齢の監督が、こんな作品を作ったのは凄いと思う。
本作を観ずに、昨年中の観るべき映画は観たつもりになっていたのを恥じる程の傑作だ。
TOSHI

TOSHI