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帝一の國のTSのレビュー・感想・評価

帝一の國(2017年製作の映画)
4.5
【日本政治の縮図】94点
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監督:永井聡
製作国:日本
ジャンル:コメディ
収録時間:118分
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2017年劇場鑑賞42本目。
ナメてた。面白いとは聞いていましたがまさかこれ程までとは思っていませんでした。これより先に見た『ガーディアンズオブギャラクシー リミックス』がやや不満でしたが、今作を見て大満足して帰ることが出来ました。最初から最後まで本当に面白い。鑑賞者の笑い声が随所に聞こえたためある意味凄い作品だと思いました。そして、そういうネタ系だけでなく権威主義の恐ろしさ、そして民主主義の偉大さを如実に伝えてくれた大傑作でありました。今のところ、今年映画館で見た邦画の中でベスト。個人的には菅田将暉主演の最高傑作とも思っています。

時は昭和。赤場帝一はとある理由から総理大臣になり自分の国をつくるということを目指し、超名門の海帝高校に首席で入学する。総理大臣になるにはこの学校で生徒会長になるということが最善の方法というのだが。。

のっけから面白い。異常なまでの海帝高校の校風は失礼ながら最早ネタ。起立、礼、着席の速さ、拍手の速さ、どれを取っても初見爆笑必至であり、これを彼らは大真面目にやるからまた興味深いです。とは言え、明治時代以降における大日本帝国ではこのような風景は当たり前だったかもしれません。まさに規律の権化とも言えるこの高校のような場所は、もしかしたら過去に普通に存在したのかもしれません。菅田将暉の演技も素晴らしく、終始笑わされてしまうのですが、細かく見れば当時の日本の恐ろしい部分を描いている歴史ドラマとも言えるのではないでしょうか。

帝一は洗脳されたかのように生徒会長を目指します。それを実現出来るならば手段を選ばない。しかし、彼は流血を伴わない戦争を座右の銘としてるので直接的な暴力行為は絶対にしません。上にあがるためには誰の下につくべきなのか、誰を蹴落としていくのか、そのあたりを考えていくいわゆる頭脳戦に力を注ぐのです。このせめぎあいが非常に面白い。そんな中、今作では三名の生徒会長の立候補が現れます。実質的には二人でしょうが、この二人のやり方が非常に対照的であり面白いです。ある者は絶対的権力の下、着々と自分を支持する者を味方につけていきますし、ある者は生徒全体の幸福を最優先し、負けるとわかっていても自分の意志を貫きます。このどちらかがトップ、つまり生徒会長に任命されることにより校風はがらりと変わるでしょう。前者がトップになれば恐らく権威主義的な校風に、後者がトップになれば恐らく民主主義的な校風になると思われます。
権威主義の恐ろしさ、民主主義の偉大さなんていうのは既に歴史が証明していますが、今作を通して改めて実感出来たと思いました。そもそも歴史を考えれば、権威主義の下行われた政治が大多数を占めると言えます。古代ギリシアのアテネではじめて民主政が確立しましたが、その後長らく民主政は実現せず、権力者の下支配される権威主義が歴史的に長続きしてしまったと思えます。苦いことに、普く人類が「人権」を手に入れることができたのはごく最近であるのです。その普く人類に「人権」を与えることができる近道こそが民主主義であると思えます。無論、民主主義と言えど欠点もあると思えますが。。

話が逸れてしまいましたが、要するに今作はその権威主義と民主主義のそれぞれの勢力を非常に面白く、そして皮肉めいて描いている傑作であると思えます。爆笑出来るし考えさせられるし、そして帝一の終盤の「総理大臣になり自分の国をつくる理由」を聞いて涙も流させられました。歴史に名を残す大物は、もしかしたらこういう理由で天下を目指したのかもしれませんね。個人的には織田信長を思い出されました。かようの様にエンターテイメント性の高い今作ですが、まさに見ている側は喜怒哀楽のオンパレード。こんな作品は滅多にないと思います。海帝祭の和太鼓のシーンも迫力ありますし、彰義隊のエピソードが出てきたのも良かったです。

何かしらの野心を持っている人が見ると、非常に感銘を受けるかもしれません。ジャンルはコメディとしましたが、今作は紛れもなく近代日本及び現代日本の政治事情を描いた半歴史作品でもあると思います。賄賂で票を獲得するあたりなんて、今のドロドロとした政治内情を描いたものであるとも言えそうです。政治家にも見て欲しい作品ですね。。原作が頗る気になりました。オススメ!!
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