真田ピロシキ

我が美しき壊れた脳の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

我が美しき壊れた脳(2014年製作の映画)
3.5
夏に脳梗塞を起こした時、視野がボヤけ字が読めなくなった。前後の文字から見えない部分を推察して何と書いてあるのか判断することは出来たもののそれまで当たり前に行えていたことが出来なくなるのはショックで、知覚というものは正常に働いている脳が見せているに過ぎないのだと思わされた。

本作は脳卒中で倒れ後遺症に見舞われた女性の経過を綴ったもの。彼女ほど重症ではなかったが似たような経験をした身として共感することがある。字が読めない。そして物を表す単語が分からない。恐ろしく悲しいことでそれまでの世界は壊れていく。視界にまで異常をきたし右側だけ幻覚めいた光景が広がる。その様子を映像で再現していて、それは彼女が敬愛するデヴィッド・リンチ的世界。認知行動のみならず精神的な障害なども実際に我が身に降りかからなければなかなか分からないものであるが、この追体験演出は理解の手助けになると思う。VRで見ればより深く入り込めそうである。

発症後の認識を新しい世界として捉え生きていけるのは彼女が賢く強い人なのだと思う。実際にはそうでない人も多くいて戸惑うのだろう。自分自身でなく身近な人がそうなった時に理解を示す上で本作は有用。映画のラストでデヴィッド・リンチが脳の活動に伴う悟りについて語って自己啓発じみた感じはするがその辺はお好みで。リンチファンなら全く問題ない。