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わたしは、ダニエル・ブレイクのpanpieのレビュー・感想・評価

4.5
「人生フルーツ」からハシゴした映画は「わたしは、ダニエル・ブレイク」。
「人生フルーツ」鑑賞後6分で今作が始まりおよそ4時間座りっぱなしだったなんて初めての経験でその6分の間にコーヒーを買い生半可な感動映画では無い事は分かっていたので覚悟して臨んだ。
予告編からずっと観たいと思っていた映画。
ケン・ローチ監督は今作をどうしても撮りたくて引退を撤回したと言う事も聞き初日に観たくて足を運んだ。


主人公ダニエル・ブレイクは大工だが仕事中に心臓発作で倒れ医者から働く事を止められ休職中だ。
国に休職手当?を申請し医師や看護師では無い担当者から審査を受けるところから始まる。
心臓が悪いのに全く関係ない質問ばかり真面目にするのでダニエルはイラっとして皮肉交じりに答え思わず苦笑してしまった。
後日申請は通らないと通知が来て不服なら電話をかける旨書かれていたので電話をかけるダニエル。
待てど暮らせどコールセンターにかけて待たされる時にかかる音楽と音声を延々と聞かされるが担当者は出ない。
散々待たされその間に色々な事をして私も待たされている間に掃除をしたりするので自身と重なって面白かった。
散々待たされた挙句やっと担当者が出だがそう言うことならこの番号ではなくホームページに載ってる番号にかけ直しての一点張り!
役所に行っても不慣れなパソコンで申請しなければならず分からないのにつきっきりでは教えてくれない。
教えてくれたのは隣で申請をしている若者達。
驚く事に若者が凄く多い!
仕事がない者、仕事に就けない者の多い事に驚く。
日本だけじゃない。
イギリスも大変なんだ。
EUを脱退したのは移民に職を奪われているからとイギリスの選挙のニュースを思い出す。
深刻なんだ。
そして役所、役人の融通の利かなさと言ったら万国共通なんだな。
でもまだ日本ではパソコンだけじゃなく手書きで申し込めるけれどマイナンバーも出来たし段々何事にもパソコン作業が増えていくのかもしれない。
高齢化社会なのに逆行していてなんとも皮肉な事だ。
ずっと長い間順番を待っても決まったように申請しないとはねられてしまう。
また一からやり直し。

引っ越ししたばかりで知らない街で迷って子供二人を伴い予約の時間に遅れて来たシングルマザーのケイティに役所の職員は冷たく彼女は困って助けを求めていても冷たくあしらい警備員を呼ぶ。
その様子を見ていたダニエルだけが彼女の肩を持ち話を聞いてやれと言ったら一緒につまみ出されてしまう。

ケイティと子供達が住む家はボロボロ。
電気も付かずお風呂の壁のタイルも拭き掃除で剥がれて割れてしまう。
ケイティは仕事もなく明日子供達に食べさせる事にも心を痛めているので階段に座り込み夜に一人で声を殺して泣く。
心が痛む。

ダニエルはそんなケイティを励まし寄り添っていく。
電気が止められていて寒いので梱包用のプチプチを窓ガラスに貼ると断熱効果があると子供達に教えたり大工だから廃材で鳥のモチーフを作って窓辺に飾るモビールをプレゼントしたり心温まる優しさで包んで行く。
他人なのに親子のようで変な見返りも求めず手を差し伸べる。
自分も困っているのに。
働けず給付を止められ家財道具も売り払ってお金に換えて。

役所の言うまま働けないのに就職活動をしたと言う実績を作る為アピールする為だけに履歴書を書き何件も工場などを回って本当に採用したいと言うところも現れ訳を説明して断るダニエルに遊びじゃないんだと怒る工場の主人。
言われた事をやっているだけだが何か違う。
こんな事は無駄だし間違っているししたくない。
それを訴えても役所の職員はまだ実績が足りないと言い放つ。
怒ったダニエルは上着のポケットに隠し持っていたスプレー缶で役所の壁に
〝わたしは、ダニエル・ブレイク〟
と書き通りを行き交う人達から賞賛される。
皆不当な扱いを受けていて共感したのだろう。
若者はスマホで写真を撮りそれをSNSにアップし年上のおそらく路上生活者?は彼を大声で褒め称える。
それを知って役所の職員達が集まってきて警察に通報し通りは一時騒然となるがダニエルは駆けつけた警察官に取り押さえられパトカーで連れて行かれる。
このシーンが映画の肝だろう。
どんなに貧しくとも人間の尊厳を失ってはいけないのだ。
監督の心の声が聞こえた。

その頃ケイティにも色々と起こる。
子供を抱え仕事もなくフードバンクに通っているところを学校の友達に見られていじめられたと言う長女。
履いている靴が接着剤で破れたところを貼ったのに剥がれてしまったと申し訳なさそうにケイティに話す。
お金は無い。
でも笑顔で新しいのを買おうと言うケイティ。
安心して眠る長女。
ケイティはある決心をする。

この一件で家族の様な絆が生まれていたのにダニエルとケイティの関係に亀裂が入り疎遠になってしまう。
しばらく顔を見せないダニエルを心配し長女がダニエルの家を訪ね彼が具合の悪い事を知る。
お金がなくて薬も買えないのだ。

ダニエルの再審査にケイティは付き添うことにしたがダニエルは本当に具合が悪そうだ。
始まる前にダニエルはWCへ行く。
そして…


ただのお涙頂戴な映画では無くケン・ローチ監督の強いメッセージは観ている私に確実に伝わった。
心の奥深い所へと刺さった。
これは遠い異国の地の話なんかじゃなかった。
日本でも同じ事が起きている。
幸いにして普通の生活をして映画を観に行く事も出来るし毎日行きたく無いが仕事もある。
高くてギリギリだが通信料も毎月なんとか払ってスマホはあるからFilmarksも出来るし文句もあるけど好きな事をして贅沢なものは買えないがなんとか食べている。
だけどある日職を奪われたら?
今まで払えていた通信料も払えなくなってFilmarksも出来なくなり映画も観に行かれなくなり食べる事さえ困ったら?
どうすればいいの?
もし貧困に陥って人間としての尊厳・生きる権利まで失いそうになったらダニエルを思い出したい。
彼はそんな絶望的な境遇に陥っても困った人に手を差し伸べる事を忘れなかった。
当たり前の事だが誰でも出来るわけでは無い。
まさに昭和の近所のおっかないけどあったかいおじさんの様だ。
必ず愛がある。
だけどダニエルの様にはいきなりは出来ないから「人生フルーツ」のおじいちゃん、おばあちゃんの様に人の事をいちばんに考え相手を思いやったら社会は少しずつ変わって行くかもしれない。
ハシゴした映画は繋がった!
こんな事があるなんて!
嬉しくてちょっと笑った。
相手の立場に立つ。
隣の困っている人に寄り添ってあげるだけで何か少し動いて変わって行くはず。
I,Daniel Blake.
ダニエル、ありがとう。
おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう。
温かい気持ちで私の心はいっぱいになった。
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