真田ピロシキ

お嬢さんの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

お嬢さん(2016年製作の映画)
4.0
定期的に百合カップリングに萌え狂う野郎になる時期がありまして、現在はストリートファイターシリーズの春麗とジュリのカップリングにイカれてます。二次創作では定番で公式も少しだけ匂わせている関係です。同性愛者でもないのにこういうBLや百合趣味を消費することに後ろめたさを感じる気持ちは持っているので、百合なんて軽い言葉には収まらないガチのレズビアン映画を見ようと思って探したところ、韓国映画で『1987、ある闘いの真実』のキム・テリとハ・ジョンウが出ている本作が良さそうに思い選択。しかも監督は『オールドボーイ』のパク・チャヌク。期待できるってもんです。

日本統治下の朝鮮で藤原伯爵と名乗る詐欺師(ハ・ジョンウ)に唆されて、華族女性と結婚して日本人姓と財産を手に入れた上月(チョ・ジヌン)の姪 秀子(キム・ミニ)を藤原と結婚させるため、メイドとして上月家に入り込んだ孤児のスッキ(キム・テリ)。計画の最終目的では秀子を日本に連れて行って金だけ手に入ったら精神病院に放り込んで捨ててやるつもりだったが、秀子の美貌とそのあまりに哀れな境遇に同情を覚えたスッキは次第に慈しみを抱いていく。金持ちのお嬢様と貧民のメイドという正反対の立場でありながら、共に母親を亡くした身であることが共感となり想いが芽生えるのはこの手のラブストーリーとしては王道。なるほど、これは女性同士の純愛映画なんだろうなと甘ったるい百合に慣れてた人間としては安心して見ていたところに第一部最後のどんでん返し。아가씨!?

秀子は何も知らないお人形さんではなかった。なかなか肝の座った切れ者。さあ、こうなると俄然映画がサスペンス染みて盛り上がってくる。第二部は秀子視点の物語。秀子は叔父のコレクションしていた変態本を人前で朗読させられていて、しかもスパンキングさせられていたりと背徳の極み。こんなのを喜んでやっているわけがないので最初から客だった藤原と示し合わせて逃げようと計画しており、この時の秀子は魔性を帯びている。それで元々騙されやすそうな顔をしているのはスッキの方なんだよね。しかしやはり悪女ではない秀子はスッキと心を通じ合わせていて、叔父も藤原も全ての悪い男どもを騙してやろうという計画の始まり。

第三部はその締めくくりで2人の純愛であり悪しき男性性への復讐劇へと変貌。特にスッキが叔父の変態コレクションを怒りに任せて破り破棄して周る姿にクソッタレな女性に対する加害性への意思表示を強く感じさせられ痛快。こういう本自体は悪趣味なだけで悪くはないのだが、それを若い娘に読ませようなんて考える奴は紛れもなくクソだ。今の現実にも普通にありそうよね。また第一部ではおっぱいが映る程度のソフトなものだったのが、後半になるとハードな性描写がなされて「お、おぉ…」と驚いた。私としては異性同性を問わず過激な性描写なんてあまり見たくないプラトニック派なのだけれど、本作に関してはこの不自由な時代に生きる2人の絶対的な繋がりと道徳に対するカウンターとして必要なのだろう。藤原との初夜の真相も合わせて見ると、深く絡み合った姿の意味がなおさら大きい。男はお呼びじゃないのよカス野郎。百合に混じりたがる男じゃないのだ。フェミニズムが強い。

藤原も「力づくで物にするのが良い」と言うようなロクでもない男であるが、捕まって拷問されてる上月に一矢報いて逝くのは金持ちクソジジイに対する貧者の反抗があり、韓国映画によく見られる反骨の魂をこんな奴からでも感じられた。レズビアン映画としてもシスターフッドという文脈でもサスペンスでも反逆劇としても幅広く楽しめて面白い映画です。韓国人俳優の日本語がところどころ聞き取りにくいことはあるものの、ネイティブでないのにこれだけやってくれてるなら文句などつけられましょうか。あの日本語をツッコミどころみたいに言ってる人は失礼よ。最近サマソニで問題になったじゃない。