TOSHI

お嬢さんのTOSHIのレビュー・感想・評価

お嬢さん(2016年製作の映画)
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これは、今年一番の怪作だろう。
大胆な性描写やサディスティックな映像に定評があるパク・チャヌク監督だが、本作も独特で異様な凄い作品だ。
韓国が日本の統治下にあった時代、屋敷に幽閉された華族令嬢・秀子の莫大な資産を巡って、詐欺師とその一味の侍女、叔父の間で騙し合いが繰り広げられる。
三部構成で、一部は侍女・スッキ(キム・テリ)の視点の物語。孤児で詐欺師一味に育てられ、今の身分から解放されたいと願うスッキが、詐欺師・藤原伯爵(ハ・ジョンウ)に協力させられ、秀子(キム・ミニ)を騙し財産を奪い取るつもりが、秀子の孤独さに同情すると同時に美貌に魅せられ、やがて恋に落ちて行く。キム・ミニとオーディションで選ばれた無名の新人、キム・テリのスリリングな絡み合いに引き込まれる。伯爵と秀子の結婚後、秀子を精神病院に入れようとして起こる事態が、ショッキングだ。
二部は秀子の視点で、一部と同じ展開で裏側を見せながら、秀子の壮絶な過去が暴かれていく。母親の自殺の原因にもなった、叔父・上月(チョ・ジヌン)による、秀子に日本語を覚えさせ、変態の華族達の前で官能小説を朗読させる描写が凄まじい。性器の名前を言わせたり、小説の挿入画の体位を再現させたりするのだ。秀子もこの暗い獄から抜け出そうとしており、その計略が浮かび上がる。
三部では社会の底辺で育ったスッキと暗い影をもつ秀子が共鳴し合い、二人による、チャヌク監督の十八番でもある復讐劇が描かれる。
全体が独特な美意識とフェティシズムに支配された、作品世界に魅了される。エロティックな描写が、激しいレズビアンシーンのように直接的な物から、スッキが秀子の引っかかる奥歯を削るシーンのように間接的な物まで、全編にちりばめられている。二転・三転するサスペンスフルなストーリー展開や、ストーリーが深みに入っていったとき、なぜか笑ってしまうブラックユーモアも病みつきになる。復讐劇を観終わって、チャヌク監督作品としては珍しく、ある種の爽快感があった。
気になったのは、言葉が韓国語と日本語がごちゃまぜな事だ。日本語の部分は字幕がなく必ずしも発音が上手くないため、何を言っているのか分からない部分もあった。片言の外国語で卑猥な言葉を口にする事によるエロスを狙ったのかも知れないが、秀子に日本語を教える先生の日本語が下手だったりするのは、日本人観客にはノイズだろう。
舞台を原作のヴィクトリア王朝時代のロンドンから日本統治下の韓国に変更し、少し間違えば見るも無残な出来になったであろう題材を、きらびやかかつ不穏、リアルかつ抽象的、過激かつ繊細と、相反する方向性の表現が共存するギリギリの地点で、唯一無二の独特な作品にまとめあげたチャヌク監督の手腕に驚嘆した。崩れないのは作品全体を貫く、抑圧された女性が解放される過程にある魅力を描き出そうとする、フェミニズムがあるからだとも感じた。
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