りっく

LOGAN ローガンのりっくのレビュー・感想・評価

LOGAN ローガン(2017年製作の映画)
5.0
すっかり老いてしまったウルヴァリン。彼は近未来のアメリカでリムジンの運転手をしてひっそりと生活している。もはやミュータントは世間から疎外された時代に、彼はどのように人生の終末を迎えるかを考えている。ハンドルを握り、窓の外のお祭り騒ぎのネオン街をぼんやり見つめるヒュージャックマンの表情。厭世的で自殺願望のある主人公の佇まいは、どこか「タクシードライバー」のデニーロや、北野武映画を思わせるところさえある。そこで奇しくも、ひとりの少女と出会うことで物語は進展していく。

一方、もうひとりの功労者・プロフェッサーXも90歳を迎え、同じミュータントであるヴァンパイアに世話をしてもらいながら、メキシコ国境付近の砂漠地帯で息を潜めて暮らしている。彼の特殊能力はもはや薬を投与しなければ抑えられず、制御できない大量破壊兵器と同等に扱われている。そこには人権もクソも存在しない。

途中から加わる少女も同様だ。大量殺人兵器を作るための実験台としてミュータントの精子を強制的に受精させられた女性たちは子供を産んだら殺され、子供たちは施設の中で兵器として育てられる。そこから脱走して子供たちを手助けした女性は追っ手により惨殺される。

いまスーパーヒーロー映画が空前のブームを迎えており、降りかざす正義や特殊な能力は、悪や暴力と紙一重、むしろ市井の人々にとっては同等なのではないかという自己憐憫型の作品が急増している。だが、本作のミュータントはもはや特殊能力という呪いをかけられ、また産まれながらの環境によって悲惨な人生が決定されてしまう。自分たちが他人と親しくなると、必ずその人は不幸になってしまう。だからこそ、孤独に生きるしかないのだ。

そんな境遇を西部劇、とりわけ劇中でも流れる「シェーン」と重ねる演出に新しさがある。そして誰かを救って去っていく人生をローガンは、そしてプロフェッサーXは望んでいたのかもしれない。だが、そんな願いは儚く残酷に散ることになる。ヒーローの老いと、自分の死に場所を探し求める物語。そこに至るまでのあまりにも悲惨な境遇や設定と、残酷な暴力描写に圧倒され続ける。ローガンと少女が持つ長い爪は、人間の手足や首を切り落とし、体を串刺しにする。だが、そこには美しさはなく、虚無感が漂い続ける。

彼らはあるかどうか分からないユートピアを夢見る。少女は脱走した仲間が集うというエデンに向かい、プロフェッサーXは船を買い海上で誰の迷惑もかけずに生きる余生を望む。まるで三世代に渡る世間の日陰で生きるしかない疑似家族の旅模様。なんと味わい深い人生のロードムービーなのだろうか。そんな中、ローガンだけは自殺願望を引きずり、よろめきながらも歩を進める。そして死に場所に辿り着くことになる。

ラストシーン。彼が埋葬された森の一角に立てられた十字架。それはミュータント全員に架けられた十字架のように見える。だが少女はその十字架を引き抜き、斜めに地面に差し直す。そこにはローガンはもちろん、プロフェッサーX、さらには今までのXメンシリーズで命を落とし、あるいは迫害されてきたすべてのミュータントに向けた、これ以上ない追悼の念に見えた瞬間、涙が止まらなくなった。そう、これはローガン版の「グラントリノ」であり、間違いなくスーパーヒーロー映画のひとつの頂点である。大傑作だ。
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