シネマJACKすぎうら

ハクソー・リッジのシネマJACKすぎうらのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.6
本作の動画レビューをUPしました!
https://youtu.be/4N6hOu0TjLs

これは、信仰になぞらえた”極私的な信念”を、あくまでも貫き通した主人公の物語。

その行動の徹底ぶりは、ある意味、奇異にも映る。それゆえ実話ながら、映画としてのリアリティを担保するのが非常に難しいという”ある意味やっかいな”特性をはらんでいる。

その点、メル・ギブソンの変態的なまでに冷徹な視線による戦場描写によって、その問題が見事にクリアされていた。あの惨たらしさが、本作の物語性にリアルな奥行きをつけているのだ。

この物語が観る者の心を鷲掴みにして離さないのは、主人公の信条の崇高さゆえではない。属するコミュニティに於いて、事前には絶対に賛同されることのない”その信念”を、あくまで貫くというひた向きさ。
それが結果的に周囲の価値観や評価を180度転換してしまうという、いわばカタルシスを味あわせてくれるからではないのだろうか。

そういう意味では、デイミアン・チャゼル作品との共通項を持った作品とも言える。この突出して頑固な主人公の振り切り具合が、実は深いところで”開拓者たるアメリカ人の魂”と共鳴するのだろう。

終盤、日本の観客への気遣いともとれるシークエンスが”挿入”されている。映画としては、この短い部分だけ急に日本人にフォーカスする流れに少々の違和感を禁じえなかったが。ただ、この物語に流れる一貫したものは敵側にもあるのだということを言いたかったのだろう。

要は、正誤や善悪の境界線を越えて、人は何かを信じて生きてきたのだし、これからも生きていくのだというメッセージを本作は放っているのではないだろうか。そんな独特の”強さ”に満ち溢れた映画という点で、メル・ギブソンの作風が滲み出ていたように思う。