グラッデン

奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガールのグラッデンのレビュー・感想・評価

3.7
大根仁監督の最新作。原作の雰囲気を残しつつ、リアルタイムにフィットさせる大根監督らしいディティールの作り込みは流石。
また、作り込みだけではなく、登場人物たちが喜怒哀楽を表現する東京の街並みのカットも良かったです。前作『SCOOP!』でもそうでしたが、地道なロケハンや監督の経験値が活かされた、大根作品らしい絵の作りだったかなと思いました。

男性目線で考えると本作は「拗らせた」人間の物語だと改めて感じました。子供の時に考える「何かになりたい」という思いは「夢」という綺麗な形で語ることができます。しかし、大人になってから語る思いは実現性と隣り合わせになります。実現性や達成度が曖昧になのに気持ちだけが先行すると主人公・興梠のように拗らせてしまう。

物語を通じて、興梠は「奥田民生のような人間になりたい」という願望の本質に気づきます。それが、拗れを加速させた狂わせガール=あかりの存在にあったというのは興味深いと思いました。

一方「狂わせガールは何を用いて人を狂わせたのか?」と冷静に考えた時、圧倒的ビジュアルや魔性のようなオーラではなく、相手を錯覚させるような距離感だと感じました。作中、水原さんに課されたある種の過剰な演技は、それを醸し出すためのものだったなと思ったりもしました。

あと、妻夫木さんのサブカルのび太ぶりがグッド。数年前の『ジャッジ』なんかもそうでしたが、日本を代表する俳優として活躍してもなお、年齢を感じさせないダメ人間の役回りを定期的にこなせるのは凄いですね(汗)

主人公の年齢とタメだと気づいて我がふり直せ状態の作品でした。なりたい自分になるのではなく、経験を積むことで人は何かになる。