真田ピロシキ

ハイジ アルプスの物語の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ハイジ アルプスの物語(2015年製作の映画)
3.7
原作小説の映像化であって高畑勲アニメの実写化ではないがアニメを見たことがあるのならそのまま入り込める。完璧なハイジ、おじいさん、ペーター、クララ、セバスチャン。ゼーゼマン家のツンとしたメイド チネッテがポイント高い。ハイジが嫌いなわけではなくて好ましく感じてる所もあるものの給金以上のことはやる気がないのでセバスチャンに比べると親切度が断然低いキャラクターが実写で蘇る。

アニメで印象に残るキャラクターはロッテンマイヤーさん。子供目線では嫌なオバさんでしかないが歳を取るとそこまで悪い人とも思わなくなる。クララ第一なのは一貫しててアニメの終盤では頑な考え方を改めてそれがお嬢様のためになるならとアルム行きも認められる。田舎は大の苦手で来なくてもいいのに自分も付いてくるのが強い責任感を感じられて嫌いにはなれないんですよ。その辺はアニメで脚色された事なのか尺の都合なのか本作では省かれている。猫アレルギーみたいなコミカル面を描かれてて、チャップリンの娘が演じていた2005年版のように全否定されてはいないから悪役にはならないがポジティブさを掬い取るのは厳しい。本作のロッテンマイヤーさんは結構若くて品が良い綺麗な人と思ったのには自分も歳を取ったと感じる(笑)アニメでも子供目線の中年女性を誇張されてただけで本来はこのくらいなのかもしれない。

ロッテンマイヤーさんはまだしもデーテおばさんは無理。どう考えても金で姪を売り払った以外の見方ができない。村人のおじいさんに対する偏見がハイジが戻ってきた時にはなくなってたのも尺の都合だろうが釈然としない。スイス編は不足を感じるところが少々あったのでドラマか二部作が良かったように思う。しかしあまり長くされると自分はウンザリするジレンマ。

窮屈なフランクフルトに対してアルムは大変開放的に撮られていてハイジやクララの心理的な問題を解決した山を肯定してるように見えるがそこまで単純でもない。不本意でもフランクフルトに行くことがなければハイジはペーターが言ってた「山では字なんか読めなくてもいい」を疑うことなく歳を重ねてた。それでは単純に字が読めない以上に自分で判断することの妨げとなって、人殺しだと噂されてたおじいさんが人の言うことではなく自分で判断しなさいと言ったことは繋がっている。作家の夢を笑ったように外を知らない人間が狭量になる田舎の閉鎖性が指摘されててこういう点は現在に置いても無縁ではない。高まってすらいる。それと学ばせるにしても押し付けではダメで自発的に学習意欲を引き出すのでなければいけない。そうした道徳的な内容を素直に描いていて曲解された道徳が蔓延る昨今におススメしたい。

難点を挙げると既に知ってる有名な話なので面白いが予定調和。Netflixの『アンという名の少女』みたいな今を映した古典作品があるだけにそこはやや物足りない。