とうるうまん

手紙は憶えているのとうるうまんのレビュー・感想・評価

手紙は憶えている(2015年製作の映画)
4.0
彼は何を忘れ、忘れようとしたのか

老人ホームで暮らす認知症の主人公、健忘を患いつつも友人にしたためてもらった手紙を頼りにアウシュビッツで失った家族の復讐の旅に出る


非常に分かりやすく丁寧な映画

健忘はふとやってくるので、『メメント』のような主人公の行動に視聴者側の焦燥感を煽られるシーンが中盤まで顕著だ
それでも忘れられないアウシュビッツでの恐怖が随所に散りばめられる
犬の鳴き声に恐怖し、天井のスピーカーを見上げ、シャワーを見つめる
回想シーンは無いが、凄惨な過去を連想させる演出だ

復讐の候補を次々と訪ねるが、銃を手に入れるシーンや移動中においていろいろな人と出会い朗らかに会話する様は日常を感じさせるが、不穏な曲が挟まることで、この老人は復讐を行うのだという現実に引き戻される
一人ひとりが章区切りのようであり、退屈せず見ていられる

ラストシーンも緊迫し、最後はスッキリと無駄な引き伸ばしもなく終わる
主人公はピアノを嗜み、得意な曲はワーグナーであるということがまたニクい


難しいところもなく、単調ではなく、満足感を持って視聴できる
まさに『映画』であるといえるだろう