somaddesign

アリー/ スター誕生のsomaddesignのレビュー・感想・評価

アリー/ スター誕生(2018年製作の映画)
5.0
アカデミー賞歌曲賞確実。
ブラッドリー・クーパー の執念にじみ出る。

:::::::::::

同じ日に見た「シュガー・ラッシュ オンライン」と同じ構造でビックリ。一日に似た映画を二本みることになるとは。(変わってく女と変わりたくない男)

ド名作の四度目の映画化、三度目のリメイク。
とはいえ、成功者のオッサンが夢見る女性をフックアップする映画は散々あって、既視感バリバリ。パッと思いつくだけでも
「マイ・フェア・レディ」「プリティ・ウーマン」「アーティスト」ちょっと違うけど「ラ・ラ・ランド」や「イリュージョニスト」……
調べたらギリシャ神話のピュグマリオン王の物語を下敷きにしたジョージ・バーナード・ショーの戯曲「ピグマリオン」が(以下略)

『饅頭怖い』並みにお馴染みの話を、今また映画にして見る価値あるかと思いきや、落語と同じく、名作は正しく起こせばやっぱり名作たり得る。その時々の時代の空気も含んだリメイクのお手本のような傑作でした。

ブラッドリー・クーパーは長編初監督で、すごいセンス。
しかも主演までして、役作りのために曲まで作って、実際に劇中歌って見せるとかデニーロでもそこまでしねえよ。
二人が出会うまでの人物背景の描き方とか、出会って恋に落ちるまでのケレン味の良さとか、とても初監督とは思えない。一見アッサリとした出会いのシーンが、クライマックスと対になったり補完になってたり。
特に目を引いたのは、やたらめったら二人に近いカメラワークと逆光フレア。ライブシーンでさえ大勢の客席を引きの画で写すことなく、延々と二人に寄り添うカメラワークで、スターでない生身の二人の物語に肉迫してく作りだと思う。
フレアの多用は、最初こそ「JJエイブラムスかよ!」と思ったけど、クライマックスに至ってジャクソンの背中越しから漏れる光が、ステージ上のライトみたいなのに、立つステージが全然真逆に見えて悲しみ倍増。

元々アルコールとドラッグの依存症に苦しんだ経験があっただけあって、酩酊状態の演技はモチロン、シラフの時ですら酔いが覚めてないような呂律怪しい雰囲気も素晴らしい。
父代わりの兄ボビーの影響を濃く受けてるせいか、口調や声質がサム・エリオット寄りの演技。プロの役作りってすごい。


アリー役は当初ビヨンセが予定されてたみたいだけど頓挫。
その時々のポップスターがこの役やると大抵失敗するので(マライヤ・キャリーの「グリッター」とか)、レディ・ガガもどうなることかと思ってたけど杞憂でした。むしろ偉そうに心配しててゴメンナサイ。
普通の女の子が徐々にレディ・ガガに成っていく過程を見せられてるみたいで楽しかったし、「鼻がデカイから成功しない」ってレコード会社に蹴られた件や実父と折り合い悪かった件も、レディ・ガガそのもの話が連想される作りになってて、理不尽さや鬱屈とした気持ちにリアリティがあった。


成功したオッサンが拾い上げたハズの女の子に追い抜かれ嫉妬に狂う話じゃなくて、どんなに成功しても孤独なままの男が、唯一分かり合えると思った女性に出会う話にした新解釈。境遇の似た二人の孤独な人間が、音楽で通じ合ってたハズなのに徐々に疎通が取れなくなる悲しさ。深く理解しあってるが故の断絶の苦しみ/絶望。相手を思いやるからこそのジャックのあの決断なのかなあ……と。


抑制の効いた演技の割に、画面上の演出が過剰に思える箇所もあったけど、過去作含めてピグマリオン系の中で一番フレッシュで、一番好きかも。


2本目
somaddesign

somaddesign