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カラオケ行こ!のsomaddesignのレビュー・感想・評価

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
5.0
合唱部の部長を務める中学生・岡聡実。中学生活最後の合唱コンクールが終わったある日、見ず知らずのヤクザにカラオケに誘われる。組長主催のカラオケ大会で最下位を回避するため、歌のレッスンをしてほしいと持ちかけられるのだが……。

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和山やまの同名マンガの実写映画化。
「リンダリンダリンダ」「苦役列車」「味園ユニバース」などで知られる山下敦弘監督、ドラマ「重版出来!」「逃げるは恥だが役にたつ」映画「罪の声」などで知られる野木亜紀子脚本。(今作を鑑賞したのは1月半ばで、ドラマ「セクシー田中さん」を発端とした問題の前。くだんの件でなにかとツイートが注目されすぎて気の毒だ)

原作ファンの自分も楽しめた。忠実な映画化ってより、映画オリジナル要素を上手に織り交ぜながら映像化ならではの楽しみを付加した傑作。

最後まで噛み合わない(噛み合ってはいけない)二人の絶妙な距離感がいい。歳の差バディモノのようでそうでもない。友達とも仲間とも違う厄介な関わり合いの距離感は原作の空気感。
狂児が岡くんを可愛がりつつも、深入りさせないように距離を置く大人っぷり。口調や態度は軽いけど「こっから先は関わっちゃダメ」の空気をちゃんと示してる。転じてヤ◯ザを軽くコミカルに描きすぎないバランスになってて、狂児たちの組織が反社会的で、危うい存在なのも匂う。

岡くんと狂児の奇妙な関係性を面白さの核に据えつつも、原作の「過ぎ去り消えてゆくもの」に着目して増補した脚本が素晴らしい。変声期を迎え少年期の終わりにいる少年と、寂れた町のヤクザとして黄昏時にいるヤクザの交流。本来交わることのない二人が奇妙に、ほんのいっときだけ関わりを持つ寂寥感と哀愁交えてコメディに仕上げてる。
映画オリジナルで消えゆく存在の暗示として、廃部寸前の部活やVHSテープなんかもあった。名画は残るけど、メディアは消えてゆくのもまた象徴的。

映画オリジナル要素といえば、合唱部の後輩・和田。原作だとモブに近い立ち位置だったのが、岡くんのライバルとなり競い合う存在になった。岡くんの煩悶がより一層明確になるし、和田との関係性の変化がそのまま岡くんの人間的成長に見えるの良い。

他に映オリの宮崎吐夢演じた岡くんのお父さん。原作だとほとんど出番ないけど、今作だと傘やお守りといったキーアイテムを授ける重要人物。独特すぎるセンスのせいで「こんなんどこで買ってくるん?」と呆れられてるのに、(イヤイヤ…そんな礼には及ばんよ)と手を振って照れたようなそぶり。
(それにしても、中学の部活で「映画を見るだけの部」なんてあったら最高すぎる、自分なら絶対入り浸る、廃部寸前じゃなくむしろ人きの部活になりそうだけど)

岡聡実を演じた新鋭・斎藤潤。「正欲」で磯村勇斗演じた佐々木佳道の中学時代を演じたのが記憶に新しい。思春期の真っ只中で、発言とは裏腹な心の波を抑えた演技で見せてくれた。今作の撮影時点でホントに変声期だったらしく、高音部に苦しみつつも魂の熱唱をするクライマックスがフレッシュ。

綾野剛が原作だと狂児が何を考えてるか分からない・終始ふざけてて腹の底が見えない人物なため、ともすればサイコパスになってしまいそうなキャラクターなのを、洒脱で憎めない好人物に留めてる。それでいて、道を踏み外した危険な過去が匂ってきたり、不意に大人の色気が滲み出たり…色々サスガ!と思った。

映オリ要素で大幅にキャラクターが増補された和田。岡くんの感じる重責や声が出ない苦しみを具現化するキャラクターだし、中盤以降ライバルとして岡くんの背後に迫る。だが和田が他人には他人の苦しみがある事に気づいて成長していく姿が趙エモい。演じた後聖人の終始ぶんむくれで思春期と反抗期ド真ん中な空気がおもろかった。



惜しむらくは、カラオケボックスを中心に場面のほとんどが室内で、人物以外に画面内で動くものがなかったり、抜けのいい画面があんまりない。端的にいえば面白い絵面が少ない。濃密に熟成されてく密室内の人間関係の面白さはあれど、窓もない狭い室内空間のシーンばかりで息苦しくなっちゃった。


1本目
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