回想シーンでご飯3杯いける

幼な子われらに生まれの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

幼な子われらに生まれ(2017年製作の映画)
4.0
重松清の小説は、本人も言っている通り「何も解決しない」。だから映像化される際にカタルシスを得られるよう大幅にアレンジを加えられる場合が多い。しかし、本作は脚本担当の荒井晴彦が20年前から映画化を考えていたらしく、重松清作品の魅力である濃密な人物描写と会話劇の魅力を損なわない、素晴らしい映画に仕上がっている。

2人の連れ子を持つ女性(田中麗奈)と、前妻に親権を譲った男性(浅野忠信)が再婚して家庭を築く。女性が妊娠した事で、ちょうど反抗期にさしかかった連れ子の長女が、父親に反感を抱くようになるというのが、ストーリーの主旨。

やろうと思えばどこまでもドロドロの展開に出来るのだろうけど、そこは重松作品。日常の会話の中で、少しずつ崩れていく家族の信頼関係を丁寧に描いている。夫婦を演じる2人をはじめ、役者陣の演技が素晴らしく、特に浅野は、家族に辛く当られ、会社でも左遷で厳しい仕事をこなす中で家族関係の修復に献身的な男を見事に演じている。2人の元パートナーを演じる宮藤官九郎と寺島しのぶも、少ない出番ながら圧倒的な存在感だ。

ロケ地として使用されている兵庫県の名塩ニュータウンは、斜行エレベーターを採用している事で、建築マニアの間で有名。浅野が1階から乗ろうとする際、いつもエレベーターは2階から上階に向かっているのが印象的だ。エレベーターに乗り遅れ、併設された階段を一段ずつ昇っていく姿は、人生の歯車がずれて苦労を背負う事になった主人公を比喩しているのだろう。

前妻(寺島しのぶ)が浅野に投げかける「あなたは理由は聞くけど、気持ちを聞こうとしない」を始め名台詞も満載。派手さは無いが、後からじわじわ沁みてくる濃密な家族ドラマだ。1人カラオケのシーンも良い。