よーだ育休準備中

東京喰種 トーキョーグールのよーだ育休準備中のレビュー・感想・評価

3.0
人に紛れ、人を喰らう、『喰種(グール)』と呼ばれる怪物が存在する世界。都内の大学に通う内気な少年カネキ(窪田正孝)は、友人の助けを借りて喫茶店で知り合った想いを寄せる女性リゼ(蒼井優)とデートの約束を取り付ける。楽しいひと時を過ごしたカネキだったが、別れ際に喰種の本性を現したリゼに襲われる。


◆主演:窪田正孝の演技力が凄まじい!

石田スイによる同名コミックを実写化した作品。原作『東京喰種』を過去に読んだ上での本作視聴となりました。本作は原作独特の世界観を描いた『笛口母娘と白鳩』のストーリーまでをなぞっています。

実写化作品として、本作の序盤の完成度は非常に高いものがありました。(窪田正孝が大学生の役というのは、少し無理がありましたが笑)

喰種である神代利世が本性を現したシーン、真っ黒な目×血の滴るニヤケ顔で迫ってくるというビジュのインパクトは勿論、赫子(かぐね:喰種特有の捕食器官。羽赫、甲赫、鱗赫、尾赫の四種類に大別される。)の質感が素晴らしい。リゼの鱗赫のザラついたテクスチャに加えて、ドクンドクンと脈打つ様子は不気味さに拍車をかける素晴らしい表現だったと思います。

致命傷を負ったカネキが病院で奇跡的に目覚めてから、喰種の臓器を移植された事で『半喰種』として覚醒するまでの引っ張り方も原作より本作の方が上手だと感じました。目を覚ました瞬間に隻眼を提示してからカネキの葛藤が始まる原作よりも、『喰種は人の食べ物が恐ろしいほど不味く臭く感じる』という設定を活かした不穏な演出で煽ってから鏡で隻眼にご対面する方が絶望感高め。

それに何より、窪田正孝の吐き散らかす演技が凄まじい。一人暮らしの部屋で齧ってはぶちまけ、啜ってはぶちまけ、受け入れ難い現実に半狂乱になりながら焦燥し、絶望している様子がとてもよく現れていました。(ここで『ムカデの影』を投影するのはちょっと違ったかな。アオギリ編まで実写やらないならこれは間違ったファンサだと思います。)夜の歌舞伎町で飢えが顔に出ちゃってるヤバめな表情もプロの技でした。


◆生殺与奪と多様性を考える。

突如『喰種』の世界に身を置くこととなったカネキの葛藤を描いた序章から、『生まれつき喰種である者たちの葛藤』へと物語はシフトしていきます。これも原作を丁寧に辿っていました。

食物連鎖の上では、喰種と人間は捕食者と被食者の関係にあります。しかしながら食物連鎖の頂点たる喰種の生活は人間以上に過酷なものでした。

︎︎︎︎☑︎ 他の喰種との縄張り(喰場)争い
︎︎︎︎︎︎☑︎ 喰種対策局の捜査官による喰種狩
︎︎︎︎︎︎☑︎ 人を狩って捕食することへの葛藤

本作ではカネキの通う大学の先輩ニシキ(白石隼也)が喰種であったこと。行政組織である喰種対策局(CCG)の喰種捜査官(ハト)である真戸(大泉洋)、亜門(鈴木伸之)との死闘を通じて、喰種は弱肉強食の世界で生きていることが描かれています。(『人間を捕食することに対する葛藤』については、続編で描かれています。)



『喰種だって悪いヤツばかりじゃない。』

生きていくために食べなければいけないから。人間しか食べられないから。仕方なくそうしているだけ。生きている人間を襲わないで、自殺者のご遺体をこっそり回収して糧にしている喰種の家族だっている。(遺族感情や死体損壊罪の問題については、ここではお口チャック。)



『貴様らに生きる価値などあるものか』

人と同じように心を持つ喰種を畜生のように扱い、人間ながら敢えて嫌な奴として描かれているであろう喰種捜査官の(なんだか名前の響きがMADっぽい)真戸呉緒。



『この人を殺しても、
お父さんとお母さんには会えない』

目の前で両親を殺されても尚、無益な殺生を拒否する喰種の少女ヒナミ(桜田ひより)の心からの叫び。



『殺られる前に殺れ』『殺られたら殺り返せ』人喰いをテーマにした作品で、まさか怪物側に同情させられる日が来ようとは思いませんでした。ぶっちゃけ窪田正孝の演技がすごすぎて、後半のメッセージは原作よりも霞んでいましたが、漫画の実写化作品としてはかなり良い線までいっていたのではないでしょうか。

社会派ダークファンタジー要素が強い『作品の前半部分』だから実写化に成功する素地があったのであって、後半のチートキャラたちによる人体破壊ばっちこい!ぐちゃぐちゃ大乱闘パートを実写化しようものなら、パワー不足で間違いなくコケるとは思いますが。