KnightsofOdessa

Peace to Us in Our Dreams(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

4.0
[亡きカテリーナ・ゴルベワの想い出を受け入れるまで] 80点

これは良い。絶望的につまらない前作『Eastern Drift』から5年が経ち、この期間に何が起こったかと云えば、ゴルベワさんが亡くなったのである。長らく人生を共にしたバルタスの絶望は計り知れないものであっただろうことは想像に難くない。そうして完成した本作品では主人公をバルタス自身が演じ、亡くなった妻にはゴルベワ姐さんの写真を、ぎこちない関係の娘にはバルタスとゴルベワさんの娘Ina Marija Bartaitéを使うことで、映画内の親子関係は現実と陸続きであり、バルタスの絶望・ゴルベワさんとの想い出・娘との精神的和解をそのまま落とし込んだ形になっている。無理にジャンル分けすれば私的映画になるのか。

ある夏の日、父親が恋人と自身の娘の三人で湖畔の別荘にやって来る。娘の母親は亡くなっており、父親との関係はぎこちない。父親もバイオリニストの恋人と上手くいっていない。この微妙に拗れた関係が、そのまま会話しないことに繋がっていて、娘のIna Marija Bartaitéが母親にそっくりなのも相まって、初期作品に戻ったかのような懐かしさと嬉しさがこみ上げてくる。まぁ会話は増えていたが、それを補って余りある静謐なショットが戻ってきていた。

ライフルを盗んだ旧友の隣人と過ごす娘、孤独になって隣人と共に酒を飲むバイオリニストの恋人、そして前の恋人らしき女性の訪問を受けて会話するバルタス。そして、恋人が居ない隙に、父娘は亡くなった母親について言葉にできない感情を語り始める。隣人の父親殺しについての挿話が一つの基軸になっているのには若干謎は残るが、バルタスとイーナ・マリアが互いの感情を吐露して見えない絆が生まれるシーンでの、断絶を飛び越えた瞬間は本当に素晴らしかった。

R.I.P. Ina Marija Bartaitė.
KnightsofOdessa

KnightsofOdessa