こたつむり

ヒトラーの贋札のこたつむりのレビュー・感想・評価

ヒトラーの贋札(2007年製作の映画)
3.4
圧倒的な死の香りが漂う世界の片隅で。
国家規模の紙幣偽造作戦を主軸に据えて。
“生”と“誇り”の選択を突き付けてくる物語。

これって人間にとって永遠のテーマですよね。
どちらも“生きるため”には重要なこと。
生命失くして生きることなど出来ず、されどパンのために生きるのではなく。自分は何のために生きているのか。それは人によって答えは千差万別。難しいテーマをガツンとぶつけてくる重厚な作品でした。

ただですね。とても惜しい作品でもありました。
と言うのも、本作はヒロインの扱いが悪いのです。
本作のヒロイン…それは“贋札”。
とても艶めかしい存在であります。
このヒロインを前面に出して、もっと主人公の人となりを浮き彫りにすれば、面白い絵柄になったと思うのです。

そう。物語の舞台が収容所の中ですからね。
どうしても絵柄的に地味になるのは仕方がない話。
だからこそ、中途半端に女性の存在を入れたり、背景の音楽で誤魔化したりせずに、もっと“ヒロイン”をエロティックに撮れば良かったのです。

あとですね。
物語自体が“主人公の回想”という体裁を取っているのですが、これは緊張感を削ぐ諸刃の剣。史実からして、ナチスドイツの敗北は知っているわけですからね。せめて主人公の動向がどうなるのか、という興味の示し方もあったのではないでしょうか。

まあ、そんなわけで。
正直なところ、史実である「敵国の経済を転覆させるために贋札作りを国家規模で行う」という部分が一番面白いと思った…というのは映画としてどうなのでしょうか。ドキュメンタリーならばいざ知らず、そこにプラスアルファを載せてこそ映画としての意味が出てくる…というのはあまりにも厳しい評でありましょうか。

何はともあれ。
“犯罪や戦争が、負の側面だけではなく技術の革新を招く”というのは一面の真実。そして、とても業の深い事実であります。歴史を勉強するような気持ちで臨むのならば、良い作品だと思います。
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