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サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~のBigBossのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

Heavy Metal Music ではなくSound of Metal

観終わって納得。

良い映画はその映画の中で描かれなかった世界、感情、物語を鑑賞者に想起させるイマジネーションの力がある。

互いに心に傷を抱えた恋人同士のルーベンとルーはメタルバンドを組み、トレーラーハウスで寝食を共にしながら各地をライブして回るという生活をしていた。
そんなある日、ドラマーのルーベンは耳に違和感を感じ次第に聴力を失っていった。
というあらすじ。

それによって当然ルーベンの世界は一変するし、恋人のルーとの関係性にも大きな転機を迎える事になる。

これまで、互いの傷が再び開いてしまわないようにお互いの傷を手で塞ぎ合うように気遣いながら生活してきた二人。
そんな二人を繋ぐのは音楽活動だったし、自らの存在意義、居場所をこの世界に見出す事が出来るのも音楽の場しかないと信じていたのだと思う。
だからこそルーベンが一番恐れたのは聴力を失う事そのものより、聴力を失う事でルーとの唯一の繋がりであるバンド活動ができなくなる事だったんじゃないだろうか。
そして音楽活動が出来なくなってしまえばルーも再び居場所を失ってしまうと、それを最も恐れたんじゃないだろうか。

だからこそ最後、ルーベンは自分との生活以外の世界で居場所を見つけたルーのもとを離れる決断をしたのだろうと思う。
もうお前は俺が居なくても大丈夫だから幸せになれよ、と。

ベッドで眠るルーが起きる前に彼女の元を離れ街中を歩くルーベン。

彼の頭の中にはインプラントを通して世界の喧騒が金属の音のように鳴り響く。

ルーベンは耳から機械を外し、静寂の世界の中に自らの居場所を見出す。

ここで映画は終わり二人がこの先どうなったのかは描かれない。

だけどルーベンは手術によって聴力が完全に戻ると思ったのと同じように、間違った思い込みをしていると僕は思った。

それは自分がルーの元を離れるのが彼女にとって最善の選択であると思ったこと。

きっと依存的な関係のままそれまでと同じような生活を望むのなら二人は離れた方が良いのだろう。

しかし聴力を失う事で一変した世界は二人の関係性も一変させたのだと思う。

この後ルーベンは再び聴覚障害者のコミュニティに戻ったのだろうか。

目を覚ましてルーベンが去った事に気づいたルーは彼を探してコミュニティを訪れ二人は再び出会うのだろうか。

その時二人はどんな選択をするのだろう。

もう傷によって繋がる必要はない。

今、二人の間を繋ぐのは愛なんだとお互いに気づくんじゃないだろうか、、、

なんて僕は想像してしまう。
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