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西北西のslowのレビュー・感想・評価

西北西(2015年製作の映画)
4.4
わたしが持っていないものを、あなたは大切そうに抱え生きる。
目を回し、ふらつき、何処を向いているかも定かではなくなり、誰と向き合うべきかもわからなくなる。愛を手に入れても、明日にはいなくなるのではないか、でもわかっていたことだと思いたくて、手を繋ぐことを拒み続けたわたし。あなたとの出会いは、わたしにとって衝撃的なものだった。落下し続けるわたしを真っ直ぐ見据え、受け止め、問うてくれたあなたの美しい目。その宝石に映る見飽きたはずの顔を見た瞬間、鼓動に触れてしまう程の距離で、わたしはぽろぽろと泣いてしまった。

昔観た安藤尋の作品を何となく思い出していた。これが邦画であることの喜び。
以前から美しい方だなと思っていたサヘル・ローズ。でも声もここまで美しいとは。侮っていた分、ちょっと震えた。空気を作る声。それは『四月の永い夢』の朝倉あきにも感じたものだけれど、サヘル・ローズのそれはまた別世界へと誘う。彼女ここではノーメイクに近いのかな。もう神々しささえ感じてしまった。バラエティ等の彼女も好き。この映画の彼女はもっと好き。韓英恵は最近『誰も知らない』を観たこともあって、成長した姿と放たれる存在感に圧倒されてしまった。こんなに視線の先が気になる女優なかなかいない。それは何かを存在させる力だ。
一見穏やかでありながら、鋭く荒々しいふたり。彼女たちがお互いに知覚を訴え合うようなやりとりは見応えがあり、同じLGBTをテーマにした映画も多い中、少し新鮮な気持ちで観ることができた。性別や態度、地位や名誉、そのようなものを常識と非常識の篩にかけて、保身をし、安心を得られるように生きる。物事の判断基準がこれでもかと溢れているこの社会は果たして豊かで有意義だろうか。それらは今はまだ少数派とされている人たちを、余計に苦しめるものとなってはいないだろうか。
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