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安城家の舞踏會のtakのレビュー・感想・評価

安城家の舞踏會(1947年製作の映画)
4.7
華族制度が廃止されることで身分を失う一家の姿を描いた名作、と噂には聞いていたけど観るのは初めて。圧倒されました。没落貴族の映画なんて、ルキノ・ビスコンティの専売特許だと思っていたけど、日本映画にこんなすごいのがあったなんて。傑作。

地位も財産も失う日が迫る中、原節子演ずる次女は屋敷の売却先で奔走する。時代は確かに変わったけれど、爵位のプライドや過去を捨てきれない父と長女。「殿様」と慕われてきたが、その地位を維持することなどもはやどうにもならない。それでも過去にしてやった恩義を口にして債権者に頭を下げて猶予を訴える父。運送業で成功した元運転手は、次女に屋敷の購入を頼まれる一方で、出戻りの長女に愛情を抱いていた。しかし長女は貴族のプライドを捨てられない。手を振りほどして「汚い」と言い放つ。時代の節目で、表舞台から姿を消す者たちと、経済力をつけていく者たち。

この映画が公開されたのは1947年。まさに華族制度が廃止された年だ。そんな時期に製作されたことが驚きだし、それが興味本位でなく、去りゆく者の揺れる心に触れるような繊細に描かれた物語。

庶民でない原節子も素晴らしい。森雅之って、今まで観たどの映画でも女性に好感度低そうな男を演じてる。それでも、許嫁だった女性にビンタ喰らった後で、高笑いしてピアノに向かう姿がなんか憎めない。

ここ最近、映画検定対策で邦画クラシックに挑んでいるが、「しとやかな獣」とこれを観て新藤兼人の脚本の良さを改めて感じる。時代の空気を感じ取れたり、短いけれど端的に刺さる台詞たち。
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