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猛獣大脱走のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

猛獣大脱走(1983年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

ヨーロッパのとある都市の世界屈指の巨大動物園でコンピュータトラブルが発生。1,000 頭もの猛獣たちが檻を破って街になだれ込み、次々と市民が犠牲となる。獣医は動物たちが異様に気を昂らせている原因が飲料水に混入された薬物にあることを突き止めるが、パニックは恐怖の連鎖反応を引き起こしていく…。

公開当時、劇場で見て以来の再鑑賞。
子どもの頃、ジャッキー・チェン主演の「プロジェクトA」の同時上映で前座として見たのだが(ホラーなど、さほど知らなかった)子ども心に強烈な印象を残した作品。
1983年にイタリアで製作されたアニマルパニック映画の佳作である。
大人になって知ったが、監督は「世界残酷物語」などグァルティエロ・ヤコペッティ監督と組んだ「モンド映画」でかつて一世を風靡したフランコ・プロスペリ。
「モンド映画」とは観客の見世物的好奇心に訴える(やらせを含めた)猟奇系モキュメンタリー映画。
本作は架空の物語だが、立派な「モンド映画」だ。
監督が本物の迫力を見せることを目的としているため、登場する猛獣はすべて本物。
再見すると現在のCGとは大違いで、動物たちの身のこなしや筋肉の動きには野生の迫力が漲っている。
さぞ、命がけの撮影だっただろう。
現在では撮影不可能な、ある意味「貴重映像」満載の作品である。

映像に映る街の看板の言語から察するに、どうやら舞台はドイツだ。
カーセックス中のカップルが大量のドブネズミに襲われ喰われてしまうエログロ描写から始まるが、冒頭からどうやって撮ったのか?と疑問が湧く。
ネズミは逃げずに固まって車の内外を走り回る。
どうやって調教されているのか?
駆けつけた獣医の指示で警察と消防が駆除に当たり、生きたネズミに放水するが逃げない。
次いで火炎放射器で焼き殺すシーンは動物愛護団体が見たら卒倒モノの動物虐待。
放水は本物のネズミにかけられているのが分かる。
火に包まれるネズミも本物なのか?手足が細かく動いている。
ネズミに喰われたカップルの作り物の死体よりもグロい残酷描写だ。

次に凶暴化した象が動物園の壁をぶち破って脱走する。
空港で象の群れが滑走路に立ちふさがり、離陸寸前のジャンボジェットは高圧送電線に激突し大爆発。
この爆発は流石にミニチュアと分かる。
その停電に伴って動物園のシステムが壊れ、動物園から脱走した猛獣たちが街に放たれ、人を襲っていく。

本作の白眉は、快速のチーターにオープンカーの女性が市街地で追いかけられるシーンだろう。
夜の都会をチーターが猛スピードで走るなんて悪夢のようにシュール。
車に餌をぶら下げて撮ったのか?
そこに通りかかった獣医と警部とも白熱のカーチェイスを繰り広げる。

地下鉄に虎が乗り込んで乗客が襲われるシーンも怖い。
流石に人が食われるシーンの虎はぬいぐるみと差し替えてあるが、乗客たちと虎の距離は極めて近く、ひとっ飛びでアウトだ。
乗客は地下線路に逃げるが、追いつかれそうになる所をまた獣医に助けられる。

食肉加工場ではハイエナが豚を襲い、ライオンが牛を襲う。
本当に肉食獣が尻に爪を立てて、家畜に噛み付いている。
何匹の家畜を犠牲にしたのか?
街中のいたるところでシロクマやライオン、興奮した猛獣が暴れまわり、吼え声が大都会に轟く。
さらにメインストリートには荒れ狂った水牛や馬の草食獣の大群が街に傾れ込む。
まるでスペインの「牛追い祭」、踏まれたらたまったもんじゃない。

従順な盲導犬が飼い主を襲ったり、草食獣の象までが凶暴化して車を踏み潰し、人の頭を踏みつぶす。
登場する動物たちはきっとサーカスあたりの調教された動物たちなのだろうが、襲われる際、実際に人間に触れている映像が多数。
まるで「決定的瞬間映像」のようである。
獣医役の主演俳優も自らシロクマを撫でる勇気を見せる。

最後は学校に閉じ込められた子供たちまでが凶暴化して教師を殺してしまうのだが、動物や人間が狂暴になったのは飲料水に混じった麻薬のせいだったと言う設定。
映画の冒頭で街に捨てられた大量の注射器の描写があったのは、まさに人災の伏線。
動物園の檻が開いたのは出来の悪いシステムのトラブルだが、ハイテクに頼りきった驕れる人間文化への警笛でもある。

麻薬の効果が薄れ、動物たちが次第に大人しくなり、事態は収拾していく。
そして映画の最後には、とってつけたように「いつも犠牲になるのは動物たちだ。悪いのは人間のほうである」などといった社会派的な結論が。

誰が麻薬を飲料水に流したのか?
犯人も分からず、人々が犠牲になるだけで何の救いの無いのが難点。

最近、地球温暖化の影響により、暖冬で熊が冬眠せず、餌を求めて都市部に現れたというニュースをよく聞く。
もし出くわしたら、その恐怖はこの映画に近いかも。
もし猛獣に人間が襲われたら?というワンシチュエーションを様々な動物でとことん見せてくれる作品である。
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