真田ピロシキ

ソウル・ステーション パンデミックの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

3.5
邦題はなるべく言いたくないファイナルエクスプレスの前日譚に当たるアニメ。実写と同じく全力疾走ゾンビ御一行様が描かれているがどうにも地味。こういうゾンビものは皮膚感覚のある生理的嫌悪感が肝で最初にゾンビになるのがホームレスというのも大きいのに、そこをアニメでやられてはせっかくのリアリティが味気ない。ケレン味すら実写の方に遠く及ばずゾンビレインやゾンビ数珠繋ぎ、マ・ドンソク無双などなくグロくもない。

アクションを期待するなら肩透かしだが社会風刺ドラマとしてのゾンビならかなりの高得点。貧困描写に力が入っていて福祉精神を持ったリベラルな人間ですら臭いホームレスには近付きたくないし、ホームレス間にすら弱肉強食の格差がある。ゾンビを警官が暴徒と呼ぶのに対して同じホームレスからは怪物呼ばわりなのがより断絶を感じさせる。死ねば皆対等。

加えてソウルに戒厳令が敷かれようとしている中で軍がゾンビと避難し遅れた市民に銃口を向ける事の意味が韓国の民主化運動を多少なりとも知っていれば分かる。タクシー運転手を見た程度でも良い。それだけにこれは尚更実写でやって欲しかったなと。実写の方では最後に軍が市民を救ってたからね。今思うとアレはタクシー運転手の検問兵士と同じようなものなのだろうか。

"お父さん"のくだりは難しい。必死の思いをしてきたのにそれなのか?いや、風俗嬢への暴力や搾取の比喩なんだろうという事は分かるよ。しかし見たままに受け止めるにはちょっと突飛すぎ。もっともこれは韓国内に限らず性風俗業会の実態を知らないから抱ける感想で本当のところは全然おかしくないのかもしれない。

押井守や今敏ですら現実を美化し過ぎてると感じられる地味なアニメが商業ベースで作れるのは凄い。イケメンや美女など一人も存在しない。現実社会の醜いものを近未来SFやファンタジーの鎧を着せずに描けている気骨。現実の足場を残すにはゾンビはやはり優れている。我らがニッポンでもやれないんすかね。人間のフリをしたゾンビがバレバレなのに何故か人間を支配出来ているとかそんな話にしたら面白いと思うよ。