TAK44マグナム

アイム・ノット・シリアルキラーのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

3.7
パンダーマスクVSドク!
こだわりの16ミリフィルムが、人知を超えた恐怖を映し出す!


まず、これは大変な映画ですよ。
何が大変って、平板なサイコスリラーだなあと鼻くそほじりながら舐めて観ていると、終盤にきて、とんでもない方向にスピンターンかましやがるからですよ、この映画は!

眠気があるときに観たら速攻で寝落ちしそうなほど、淡々と、静かに物語が紡がれます。
ほとんどが主人公の目線で描写され、これがまた抑揚のない語り口な上に何処か突き放したような狂気と冷たさを感じる演出。
凄惨な事件が起きようが何だろうがテンポはそのまま、
派手なBGMをドンドンと鳴り響かせてビビらそうとするわけでもありません。

母親が葬儀屋を営んでいるので、遺体の防腐処理を手伝っていると心が落ち着く主人公の少年ジョン。
周囲からは変人扱いされ、ソシオパス(社会病質者)だとも疑われています。
住んでいる田舎町では、犠牲者の内臓が奪われるといった恐るべき連続殺人事件が起こり、偶然にも向かいに住む老人ビルが犯人だと知る事になります。
ここからジョンの孤独な戦いが始まり、やがて想像を超えた驚愕のラストへと雪崩込むのです。

「え?マジで?」
と、思わず顎が外れそうになってもおかしくないラスト付近からの超絶展開に、おしっこをチビったとしても仕方ないでしょう。
ジョンも最初はチビってたし。
それにしても、クライマックスをこんな風に捻ってしまって本当に良かったのか?
それとも悪かったのか? 
「ふざけんな!」と、怒りだす人がいてもおかしくないでしょうね。
ある意味、馬鹿馬鹿しいし(汗)!
伏線は色々とはってありましたけどね、なにしろ淡々としているものだから、もっとリアリティ重視の人間ドラマなのかと思いこんでしまっていたんですよね。
そしたら、思いっきりシュールでした、と。

とは言っても、紛れもなくこれはたんなるホラーとかスリラーという枠を超えた人間ドラマに他ならないのです。
少年と老人の魂の交流を描いたドラマというか、何というか。
強敵と書いて「とも」と読む、そんな熱血マンガみたいな部分が確実にあるんです。
愛を知った◯◯◯◯◯、つまりはそう、永井豪ですよ!

気になった点はいくつかありますが、テーマは
ずばり「愛」、「LOVE」でしょう。
愛すればこそ殺人を犯したり、愛すればこそ人間らしく生きようとしたり、人は他者との絆によって白にも黒にも染まるのです。
本作では白と黒を印象づける象徴的なものが散見されます。
ジョンが使うパンダのマスクや、ハロウィンでのメイク、喪服や黒い血のようなもの・・・
ジョンが「白」と「黒」の間で揺れ動いている心情を表現しているのが、彼が行動を起こす時に変装するパンダーマスク(←勝手に命名)なのかもしれません。
ただ、隣家のカワイコちゃんが誘ってきても何も進展しないのはよく分かりませんでした。
ジョンは覗き見までしているのに、結局、彼女はただの脇役でしたね。ここはもっと等身大の愛情をジョンが彼女を通して知っても良かったんじゃないかなぁ?

また、ジョンには過剰な殺人衝動があるようには描写されておりません。
学校では「危険な殺人鬼予備軍」の様に疑われていたりしますけれど、率先して「どいつもこいつもブチ殺しちゃる」などとは思っていないご様子。
クラスメートにからかわれて思わずフォークを握りしめたり、連続殺人鬼について熱心に調べていたりしますが、そういうのって割と普通じゃないですかね。
誰だって虐められれば「こんちくちょー!」と思うし、好奇心の対象は人それぞれですし。
日本だって、コンビニにさえシリアルキラーの本が売っていたりするご時世ですよ。
どちらかと言うと、死体愛好者に近いんじゃないのかな?
確かに一風変わっているけれど、周囲の人たちが「おまえは変わってる」と言うものだから、余計に変な方向にシフトしていっちゃうんでしょう。
多感な時期なのに家庭が半分崩壊していたりすれば、そりゃ少しは変にもなりますよ。
なので、「ソシオパスVSシリアルキラー」という謳い文句は、少し違うと感じました。
ジョンが普通じゃないのは、隣の爺さんが殺人鬼だと知っても通報しないところと、爺さんの殺しをやめさせたいからって、それは流石にアウトだろうというレベルの事をついついやっちゃうところだけ。そのお陰で親切なセラピストがトバッチリを受けちゃうしね。

長々と書いてきましたが(いつもか・・・)、最後に、「アイム・ノット・シリアルキラー」というタイトルは巧いなぁと。
実際のところ作り手がどうしてこのタイトルにしたのかは知りませんが、これってジョンにもビルにも当てはまるんですよね。
ビルもシリアルキラーと呼ばれるのは心外でしょうから・・・。


マックス・レコーズの繊細な演技もさることながら、やはりクリストファー・ロイドの怪演中の怪演が最大の見所。
何だか得体の知れない映画ですけれど、不思議に感情を揺さぶられるような気がする謎な映画でした。
睡眠を充分にとってからどうぞ。


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