オレンチ

ライフのオレンチのネタバレレビュー・内容・結末

ライフ(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

『カルビンは行き過ぎた好奇心が生んだ弊害だ。』
──ジェイク・ギレンホール。


久しぶりにそこそこなバジェットでモンスターパニックモノが来ましたね!
しかも舞台は宇宙ステーション!
宇宙ステーションとか宇宙船が舞台であーだこーだやるSFはかなり好物なんですよね〜。
ざっと思いつくので、『2001年宇宙の旅』を始め、『サンシャイン2057』とか。
ちょっと違うけど『インターステラー』、『ロストインスペース』、『レッドプラネット』、『ロックアウト』…etc
で、今回は実在するISSが舞台ということでじわじわと期待していた一作!というわけで…

字幕版2回、吹替版1回、各種特典・メイキング鑑賞してからのレビューです!
今回もコメンタリーなし!残念!

まずですね、いずれもUHD版で鑑賞したのですが、映像がむちゃくちゃ綺麗です。
宇宙モノとUHDはそれだけで相性がいいと思っているのですが、今回も例外ではなかったようです。
冒頭に地球の地平線から太陽の光が差し、徐々にISSを照らすシーンがありますが、特にここは綺麗でした!
まさに息を飲むとはこのことで、逆光が生み出す光りと影のコントラストがとてつもない美しさを放っています。
さらに字幕版はドルビーアトモス で収録されているのですが、アトモスと全編無重力の密室劇はとんでもないくらい相性が良いです!
カルビンがね〜ペタペタペタペタと天井を這うんですよ…w
音と映像だけで最早それなりに面白いですね、コレw
実際、撮影の方法にこだわる監督は数多にいらっしゃいますし、ドルビーアトモスなんかは意図的に収録されているわけで、絶対に無視できない評価ポイントであることは間違いないと思います。


で、本作が全体的にどうだったか結論を先に言うと…。

シンプルに面白い!!

よっ!ジャンル映画!って感じですね。
まず設定の勝利ですよね。
実際に存在する環境で、もしかしたら本当に起こりそうな、ギリギリでリアリティを感じられる設定だと思います。
同じ火星からの脅威でいうと『マーズアタック!』とは正反対のリアリティだと思いますねw
というかパニックモノとして、オチも含め教科書的な作品なんじゃないでしょうか?

まず冒頭。
なんかよく分からないけど緊張感ある気がする…じわじわとワンカット風で進むため余計にに緊張感が増し、ようやく自体を理解できたタイミングで考える暇なくやって来る危機的状況。
このシークエンスでとりあえず集中力は映画にもってかれました。
掴みオッケー!って感じです。

続いて地球の子供達とISSクルーが交信するシーンなんですが、ここがまた上手いですね。
『あっ。俺今説明されてる。』
ってなるでしょ。
要はISSクルーと子供達の交信という《ありそうな展開》を利用して、実は映画を見ている観客に対してクルーを一人一人、どんな人物か説明しているんですね。
こういうメタ的な説明シーンの手際がいいと、みていて気持ちいいですね。

そのままの流れでクルー同士の人間関係とか、クルーのバックヤードを説明するあたりも自然かつ無駄がなく素晴らしいですね。
ローリーがヒューを助けるためにいち早く飛び込む動機とか、後半にあるショウ・ムラカミの葛藤とか、6人が抱えている不安や悩みみたいなものが自然と入って来るため、その後彼らが取る行動に対して、この手のジャンルでは避けられない《バカっぽさ》を薄めてくれていると思います。
(エイリアン:コヴェナントの前半とかバカすぎでしたからねw
嫌いな作品じゃないですがw)

宇宙生物学者が不治の病を患っているとこなんかも教科書通り!!って感じですよね。
絶対やりすぎるに決まってるし、動機としては納得できてしまうと思います。
ヒューの好奇心こそ、物語のターニングポイントであり、ある意味当然の好奇心なんだと思います。
というか、特典映像の中に割と重要なシーンが隠されていたんですが、隔離ラボで事故が起こりますよね?
あれ、ヒューがわざと起こしたんじゃないかと確信せざるを得ないシーンが入ってるんですよね。
そう思うとヒューが見せる一連の表情に、より深みを感じれると思います。


ただどこもかしくも教科書通りかというと、そういうわけでもなく。
なんと言っても最初の犠牲者ですよね!

えっ、お前最初に死ぬの!?!?

じゃ次から誰がもはやわかんねぇー!

ってなりましたw
お陰である種こういうジャンル映画には必要不可欠な、"ハラハラ"という推進力はほぼ保たれたままエンディングを迎えることができたと思います。

特に日本人ならショウ・ムラカミこと真田広之が死んでしまうのか…?
いや死んでしまうだろうけどそれはいつなのだろうか…?
ココが最もなハラハラポイントなんじゃないっすかね?
実際、クルーの中で誰よりも人間味溢れていて、誰よりも地球に帰してあげたいキャラだったと思います。
だからこそのあの仕打ちなんでしょうけどね…w

ちなみに真田さんは全編無重力を実現させたワイヤーワークがキャスト勢の中で誰よりも上手く、皆が真田さんを参考にしたなんて話も聞きました。
あと、元々は誰よりも若手クルーとしてオファーが来てたみたいですね。
それはちょっと僕ではないんじゃないですか?と監督と話し合い、結局は一番ベテランの役になったそうです。
ここら辺は真田広之インタビューとして短いですが特典に入っているので機会があれば是非。

で、カルビンがいよいよ牙をむき出してからの危機的状況とブレイクタイムのバランスなんかも申し分なく上手いなぁーー!と思うんですが…決定的に欠けている要素がひとつだけありました…!

それはカルビンの脅威感です。
確かに圧倒的な生命力と凶暴性をもっていて、人間にとって脅威であることには間違いありません。
ただ、地球レベルで考えた時─。
カルビンがどれほどの脅威なのか、ちょっと分かりづらいんですよ。
ここ、"分かりづらい"ってところが重要だと思うんですが、異常な繁殖力が示されているわけでもなく、感染力の強い死のウイルスというわけでもなく、とりあえず劇中でわかっていることは、血を吸って形を変えながら"巨大化していく"くらいですよね。
どんどん巨大化して、イェーガーが必要になる程巨大なKAIJUになるんだというなら話は違ってきますしw
どう進化していくか分からない分、脅威として伸びしろはあると思いますし、検疫官的な仕事をしている人からしたら、『だからこそ地球に入れてはいけないんだ!』ていうことなんでしょうが…。
観客のほとんどは検疫官ではなく、割と多くの人が"分からない"ことに対して"楽観的"、"客観的"に考えてしまいがちだと思います。
『いやいや、分からないからこそ怖いと思うぞ!』という方は危機管理能力が高い人だと思うし素晴らしい才能だと思うんですが、映画的に考えた時、どうして隔離が必要なのか明確に示された方が万人が、

こいつはヤベェ…。

って感じることができると思うんですよね。
例えばリドリー・スコットの『エイリアン』なんかはそれがめちゃくちゃ分かりやすいですよね。
特に2,4で圧倒的な繁殖力を見せつけられていますからゼノモーフが地球で溢れたらそりゃやばいに決まってると感じることができると思います。

勘違いしないでいただきたいのは、本作で語られる隔離についてやりすぎだと言っているのではなく、むしろ至極当然かつ適切な処置だと思っています。
ただ映画としてこの部分にハラハラが欠けていたかなと思いました。

あと小さいところでいうと、カルビンの主観ショットがなぜかノイズになってしまいました。
本来モンスターパニックモノは『ジョーズ』を代表に主観ショットが非常に効果的なんですが、カルビンの場合得体の知れない感が恐怖を煽っていた分、主観ショットで得体が少し知れてしまったというか、意志を感じられてしまいノイズになってしまったのかな〜とか思っています。もしくは単純に主観ショットの視覚効果がチープだったからかな?w

あとISSの見取図的な説明がしっかりあっても良いかなーと思いました。
実際のISSを忠実に再現されているので調べればわかることなんですが、せっかく序盤の説明シーンの手際がいいので一緒に盛り込まれて入れば、もっとハラハラが倍増するシーンがあったかと思います。

細かいことを言ったら他にも色々あるんですが、なんと言ってもラスト!最高でしたね〜。
脱出からのシーンは途中まで二人の位置関係分かりづらくて下手だなーとか思っちゃっていたんですが、大気圏突入したくらいからですかね、『あ、やられた〜〜』って思いました。
オチがアレですから意図的に分かりづらくされていたんですね。気づくの遅すぎました。
で、オチの後味の悪さ。
それに拍車をかけるようなBGM。
これこそ、こ!れ!こ!そ!
この映画の教科書的結末だと思います。
不安を煽る型BGMが良いですよね〜。
もう『うわぁ…。』としか思わざるをえないですもんね。
個人的には生きることを選んだミランダのあの断末魔…。しばらくなんとも言えない余韻として残っていました。

あと言わずもがな全般ワイヤーワークを駆使し、無重力として撮影されているんですが、俳優陣が口を揃えて無重力の演技をしながら感情を込めて演技するのがとにかく難しいとおっしゃっていました。
少数精鋭の演技派俳優陣のおかげあって、ここまで話に説得力を生み出してくれた作品であることは間違いないでしょう!

最後まで長文・乱文にお付き合い頂きありがとうございました。