みかんぼうや

THE NET 網に囚われた男のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

THE NET 網に囚われた男(2016年製作の映画)
4.3
【国家思想という南北に張り巡らされた網にとらわれ、個人的人権を奪われた男。韓国映画の政治・社会課題とエンタメ性の絶妙なバランス感を堪能!】

韓国の名匠キム・ギドク作品は本作が初めて。フィルマのレビュアーちぃさんさんきっかけで知った作品ですが、個人的には今まで観た韓国映画の中でもかなり上位に食い込む面白さでした。

北朝鮮のとある漁師が自分のもつ漁船が故障したことで韓国の領地に流されてしまい、韓国側で北朝鮮のスパイと思われ理不尽な尋問を受け始める・・・という設定なのですが、韓国映画の十八番芸というべきか、こういう政治・社会問題という小難しいテーマを題材としつつ分かりやすいエンタメ作品として観やすく面白く仕上げるのが本当に巧い!社会派とエンタメのバランスがとにかく絶妙。

事故で北から南へ、というセンシティブながらユニークな設定の中で、北朝鮮共産党への絶対服従と制限という“お決まり”の描写はもちろんのこと、韓国側での、なんとかスパイに仕立て上げたい捜査官による理不尽的な尋問(「殺人の追憶」などで見慣れてはいますが)、維持でも南(韓国)へ亡命させたい韓国上層部の意向、さらには 資本主義に支えられ“自由”であるはずの韓国におけるその資本主義が生んだ格差社会への皮肉的描写など、自国側の社会的課題にもしっかり切り込んでいるあたりが、“南>北”のような短絡的な流れにならず、作品としてより妙味あるものになっていると思います。

ネタバレになるので詳しくは書きませんが、後半の展開やラストも含めて、この南北それぞれの異なる国家思想という張り巡らされた網に囚われ、個人的な人権を奪われていく男を通じて描かれる南北それぞれでの体験は、まさに両国が抱える問題への皮肉の連続。南北問題の根深さを感じます。

本作を観て、改めて韓国映画が凄いと思わされるのは、この政府・外交問題に躊躇なく切り込んでいくことと、その裏にある韓国政府のエンタメに対する寛容さ。本作もかなりセンシティブなテーマだと思いますし、現在の政治への揶揄も目立ちますが、業界的にも受け手側にも少なくとも映画表現においてはそれが許容される度量の深さがあって、だからこそ、監督始め製作陣も、そういう力強い作品を創り、送り出せるのでしょうね(中国や中東の国によっては制限がかかる場合もあると思いますので)。

最近の邦画でも、社会格差やいじめ、認知症など、家庭における身近な社会問題を描いた作品は多々見られますが、国家・政治・外交レベルの課題に対して批判的にグイグイ切り込む、ある種の反骨精神と迫力を兼ね備えた作品はあまり思い浮かびません(なんとなくですが、昭和時代の作品のほうが戦争映画等が多いことも含め、そういった社会への反骨心と迫力を持った作品が多い印象があります)。これは国民の姿勢が表れているのか、一見自由に思える日本のエンタメ界において、タブーに切り込むことへの暗黙的制限があるのか。もちろん国の置かれている状況も違うので、当然複合的な要素によるものだと思いますが、“繊細さ”と“丁寧さ”においては韓国映画に引けを取らない邦画も、“力強さ”や“迫力”(派手という意味ではなく)においては、韓国映画のほうが抜きんでている印象を勝手に持っています。

キム・ギドク監督作品、本作で気になり少し調べてみると、結構当たりはずれが激しいようですが、フィルマレビューを参考にしつつ、今後も気になる作品を観てみたいと思います。面白い作品がありましたら、ぜひお薦めなどご紹介ください!
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