半兵衛

大殺陣の半兵衛のレビュー・感想・評価

大殺陣(1964年製作の映画)
4.0
『十三人の刺客』が娯楽としてのテロ時代劇を提供したとしたら、本作はテロリズムに傾倒しすぎて作品のバランスが崩壊してしまった問題作。それでも黄金期の東映時代劇スタッフによる荘厳な美術とそれを生かした加藤泰監督のようなローアングルの厳密なショット、役者たちの鬼気迫る熱演により見ごたえのある作品に(あまりのパワーに見ていて疲れてくるが)。

そして何より、娯楽としてのチャンバラではなく人が何度も斬られてそれでも血まみれになって息も絶え絶えで生きているというリアルなチャンバラを手持ちカメラによって荒々しくとらえられた映像の迫力が圧巻。ラストのテロチームが標的とする次期将軍候補を暗殺せんと田んぼの中に入り泥と血にまみれながらの死闘も凄い。

でもあまりにもテロを重視しすぎたからか肝心のお話が抽象的で今一つ頭に入ってこないし、テロに巻き込まれたことをきっかけに将軍候補暗殺グループに参加することになったアンラッキーすぎる主人公里見浩太朗の存在感が他の濃いキャラクターに比べて薄いことも気になる。あと里見がこうしたリアルな殺陣や作風にあまり馴染んでおらず、後年派手な衣装を身にまとい踊りのようなチャンバラをメインにした時代劇を活躍の場とするのは必然的だったのかも。

ボス的存在の老中大友柳太朗とその部下大木実コンビの冷酷な悪役ぶりが素晴らしく、敵役としての魅力を大いに発揮している。それに対してテロリスト側は気は優しいが統率力がゼロなリーダー大坂志郎(テロのために大事にしていた家族を始末する場面は怖かったけれど)、見た目は強そうだが中身は外道でそんなに実力はなくて「ウドの大木」という言葉がよく似合う山本麟一、テロの発案者山鹿素行の部下だけれど決行直前に逃亡した稲葉義男、戦闘員としては問題外な砂塚秀夫と全く頼りにならず、無理ゲー感がやる前から漂ってくる。

周りは田んぼばかりで囲まれた新吉原で繰り広げられる絶望的な戦闘からの、ひねったラストも見所。

手持ちのような映像が印象を残す本作ではあるが、実はこの当時東映京都撮影所には手持ちカメラが無くてなんと普通のカメラを数人がかりで持ちかかえて強引に手持ちにしてしまったという衝撃的なエピソードが。どうりで一部シーンがぶれていたわけだ。ちなみに京都撮影所が手持ちカメラをようやく購入したのは『仁義なき戦い 広島死闘篇』の撮影前だったりする(第一作目のときは手持ち用のカメラが無いためサイレント時代に使用された軽量のカメラを強引に手持ちカメラとして使ったそう)。
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