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マイブリッジの糸のニューランドのレビュー・感想・評価

マイブリッジの糸(2011年製作の映画)
3.6
✔️💾【山村浩二·2010年代·短編多様】🔸『マイブリッジの糸』(3.6p)🔸『鶴下絵和歌巻』(3.5p)🔸『古事記日向編』(3.7p)🔸『five fire fish』(3.3p)🔸『鐘声色彩幻想』(3.7p)🔸『怪物学抄』(34)🔸『干支1/3』(33)🔸『サティのバラード』(3.7p)🔸『水の夢』(3.2p)🔸『ゆめみのえ』(3.4p)🔸『Dreams into Drawing』(3.4p)▶️▶️


 当初、観る予定はなく予約も取ってなかったが、買い物の選択とその手続きが予想外に早く終わり、入る。特にこの作家のファンでもないが、なにしろこの種の短編系では和田淳さんなんかと並ぶポピュラーな存在なので、半数は観たことがあるが、前日、昨年の日本映画封切映画ベストに置いた(実際の一般公開は本年1月だったので、本当は本年度の投票対象となるらしい)『幾多の北』を再見し納得し直したので、どれも以前にも増して素晴らしく見える。というか、まさに至福の映画体験で中身や意味などどうでもよくなった。只々浸っていたい、名匠というより巨匠と呼ぶべきか、力みや苦労が表には感じられず、安心して心ゆくまで楽しませてもらえる、境地に来てる。
 和田の様な固有絶対の画調や線質は、山村にはなく、アニメのあらゆる手法を試しているが、話題になった『頭山』辺からは、細かな描線のウェイトが増し、この番組の最初の『マイブリッジ~』でも、モノトーンの細い鉛筆風や、クロッキー·クレヨン·水彩らが弱い存在から強い主張をし、潰れた多種動物の写真(の連続画)らと絡む。淡めも質感確かなからーも入り込む。前衛か後衛か、わからないような慎重さ·細心さが山村か。映画の前身·始祖的なマイブリッジは他の映画でもたまに扱われるが、その低くカメラのシャッターと連動した糸を張った馬場の仕掛けらと共に、二組の母娘が、海中渦間でもピアノ前でも縺れからみ合う。部屋の母が捌いた魚から出てきた懐中時計の数字を、海の母娘は顔面に受け継ぎ、部屋のピアノには楽譜が指示してる。大小の手が重なり、糸が継ぎ、泳ぎ·段を上り、逆さに天地に立つのが繋がる、あからさまではない、継承=映画のコマの受継ぎ、が多種微細に描かれ、広く自由に相互呼応してゆく。
 『鶴下~』は、癖のない正確な描写の画調で、隊列が相似の拡がりとうねりを示す、鶴らの飛行·波の形動と呼応·順次着地らが、侵し難い品位と誇張なさで描かれてく。
 『古事記~』は穏やかで親しみやすい筆のうねりで、イザナギ·イザナミから、アマテラス·スサノオら経て、次世代の足場より固めてく神まで、連続の絵巻物の様に前後複数画が受継がれ·呼応しながら、黄泉の国、地上追放、光の遮断、兄弟の骨肉葛藤、らが思わぬ色彩の華やかさやおぞましさ·動感や多種性への拡がり·深まりを、可能性としてのより巨大さ·自在さを感じさせながら、進ませてゆく。
 『five~』は、単純大胆に、字から5匹の魚を生んでく、墨筆動画。
 『鐘声~』は横に鳥らしいのが横ぎるので一応ビスタサイズらしいが、その中の半分以下の縦長の枠内を、カラフルな水彩や抽象形が、素晴しい自由さと力で、単純も豊かに駆け抜けてく、を止まない、まさにマクラレンに匹敵する、才能の奔流作。
 『怪物~』は様々にひねった説明の付く、ショボいがひけらかさない知性に彩られた、動き少くも印象的怪物の、舞台枠羅列作。果てがないようで、何時しか寄って赤い緞帳も囲みきれず、またサイズも巨大なのがゴロンと有ったりして、語るベースから変化して来てる、と気付く。
 『干支~』は様々多様な干支の字から、二匹が絡み·その時を象徴する、字面を残しての一気絵に変化の、筆捌きと墨形の、スッキリ大胆を連ね重ねてく作。
 『サティ~』は、19世紀初頭パリか、著名文化人もサワリを示し合い、アメリカからの来賓少女、何重にも他人を口から出し合う演物の芸人ら、へたる感じも存在がダラッと巨大生物、生身かかたい作り物か分からない動きの者、らがバレエを成してく、というよりサーカス的に、果てなく·かつ周りに隙なく配置しつくした、異形や奇怪動めきが、まるで拒否感生まれぬ、実に線も色彩もカラフルで、自然な生気に満ち溢れた、押し付けのない真の豪華作。この辺りのこの作家は、色抜きめ作が多いので、一際楽しく宝物的に感じる。実際これは映画は宝の証左だ。
 『水の夢』は、太古の時代を3区分くらいにして、それぞれの時代と生物の行き着く形を、迷いない大胆不可思議な墨絵で描いてゆく。敢えて下手な駄洒落で、各種魚らを説明してゆく(駄洒落解説は、下記作の方かな)。
 『ゆめみ~』は、昔の心優しく色々を描き込んだ戯画の、癖のないユーモラス動き出し風作で、江戸時代の有名絵師の子供たちとやり取り日常と、創作中すぐ眠り込む頭の中の自由世界を描く。やはり絵巻物のようにも、多シーンが繋がり拡がり、流れてく。
『Dre~』はその(音声だけ)英語版。
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