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不能犯のマーチのレビュー・感想・評価

不能犯(2018年製作の映画)
3.3
白石監督の毒は薄めですが、この作品にその毒素を感じられる瞬間は何度かあります。


【レビュー】

《愚かだね、邦画は。》

『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』シリーズ
『オカルト』
『ノロイ』
『ある優しき殺人者の記録』
『貞子 vs 伽椰子』
などでお馴染み、個人的に大好きな白石晃士監督初の漫画実写化作品👻!!

正直なところ白石監督が手掛けていなければ、劇場スルーはおろかレンタルスルーさえしていたであろう作品であり、勿論原作は未読です。(ただ、何かのきっかけで1話分だけは見たことがあるような…ないような。)

日本の小規模商業映画の限界を感じる内容ではありましたが、そもそもの設定が設定なだけに、今作以上に面白くするは中々難しかったのではないかなと思います。つまり、今作における白石監督の演出は原作自体の魅力を映画的に引き出した、とても素晴らしいものでした。

フィルマの評価がかなり低いのも頷けるほど内容は薄いし、コミック的な厨二感のあるセリフや設定などがあったり、テンポが悪かったりはするのですが、1つシーンの間を延ばすというそのテンポの悪さは作品全体の薄気味悪さを盛り立てることに直結していますし、おそらく他の監督ではしないようなレイティングぎりぎりで独自色を全面に押し出す演出を商業映画でやってのける白石監督の物怖じなさは、さすがです。

マインドコントロール前の目の中のサイケデリックな描写だったり、全体に張り詰めた恐怖感、刺激的な殺し方など、趣向を凝らしてエンターテイメントとホラーを両立させる演出が巧みで見応えがありました。

不謹慎ですけどこの手の作品は、次第に殺しの動機と死に様を楽しむ構造になっているのでラストどうするのかなと思っていたら、始めから明らかにラストに絡んでくるだろうなと思ってた奴が予想通りに暴れただけだったのでげんなりしましたし、最終的に不能犯を殺す云々でグタグタしているのがストーリー的に面白くなかった。

また、役者陣の会話の齟齬が多かったですし、圧倒的に間が悪く、素人目に見ても下手な人が2人ほどいて、集中力の阻害に繋がったので勘弁して欲しいです。笑
まあテット・ワダさんとテラスハウス上がりの菅谷さんなんですけど…特にテットさん酷すぎです😵

一方、「大俳優に何やらせてんだ!」ってほどヨゴレ役まがいの役を小林稔侍さんが演じていたのですが、迫力がヤバかったです!

あとヤスケンの死に様がかなり印象的でした。Jホラーを絡め、恐怖を煽ってからの階段落ちは見事でしたよ。笑
ちなみにヤスケンはこの作品の中で最もハマってました!!

ケレン味のある監督の演出は独自のホラー感も絡めていて凄く良かったのですが、鑑賞後に残ったものが何もないというか、面白さが一過性のものなので年の暮れには観たことすら忘れていそうです。笑
個人的には稚拙ながらも好きなタイプの作品ではあるんですけどね。

白石ユニバースのイースターエッグ的に登場する大迫さんと久保山さんの出演シーンもお見逃しなく!!!!

【p.s.】
アメコミが原作の改変をリアリズムの上昇に繋げていることで称賛を得ているのに対し、日本では原作から少し外れるとそれが“映画的”に良い表現であっても直ぐに貶されてしまうほど原作と映画の関係は密だと思っている人が多いので、原作を設定の一部だけ取り込むのはやはり難しいという部分をより感じた作品でもありました。

文化が違うので難しい話ではありますが、原作と映画はやはり別種のものとして考えるべきだと思いますね。原作と映画を比べる感想を見かけたりするのですが、それってナンセンスですよね。私も好きな作品が原作として映画化された時に落胆したことがありますが、その落胆は映画に向けたものであって、原作への感動とは別のものですし、実写化作品が個人的にスゴくハマってもそれは映画に向けたものであって、原作へのそれとは違うんですよね。原作へのリスペクトは大事ですが、映画的に素晴らしい作品になることこそが原作への恩返しに繋がると思うんです。アメコミはそういうことが出来ているのに対して、邦画はクオリティの低さがあるからしょうがないにしても、まだまだそこの発展が見込めていないと思うんですよね…映画がダメだったからといって、原作の価値が下がる訳ではないのに。
リアリズム上昇の為の改変技術の向上が、まずは邦画において重要なところだと思います。演出もそうですが、脚本が特にそのレベルまで達せていないものが多い気がします。
あくまでも、個人的な意見ではありますが。


【映画情報】
上映時間:106分
2018年 / 日本🇯🇵
監督・脚本:白石晃士
脚本:山岡潤平
原作:『不能犯』
(原作・宮月新 / 画・神崎裕也)
出演:松坂桃李
沢尻エリカ
新田真剣佑
間宮祥太朗
真野恵里菜
芦名星
矢田亜希子
安田顕
小林稔侍
概要:何度も変死事件現場で目撃されなが
らも、誰もその犯行を立証できない
主人公が暗躍する姿を活写する。
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