HicK

カーズ/クロスロードのHicKのレビュー・感想・評価

カーズ/クロスロード(2017年製作の映画)
3.6
《方向修正、お家芸の盛り込み、奮闘した完結作》

【集大成にして方向修正】
「トイ・ストーリー3」から発想を得たような『いつか来る、その時』の直接的な表現と、同作や「モンスターズ・ユニバーシティ」にもみられた『少し厳しい現実を"前向きに"描く』というピクサーカラーの踏襲があった。不評だった「カーズ2」を無視するかのように、1作目に全力で回帰していくような展開も印象的な作品。(メーター封印 笑)。

【ドック】
故ポール・ニューマン演じたドックへの敬意を表した展開。全編を通して彼の背景を追う展開であり、彼に対する制作陣のリスペクトがひしひしと伝わってくる。前作「2」で突如舞台を移した事もその裏返しなのかもしれない。劇中、マックイーンはドックが引退した後の「生きがい」を知り、引退が全ての終わりでは無いと悟る描写は重みが効いている。

【ラミレス】
マックイーンからすれば"年下の指導者"であり、彼の居心地の悪さがよく伝わってくる。「他のみんなの体が大きく、力も強い。だから夢を諦めた」という彼女の背景がセリフと共に語られ、「レース=男性社会」とした女性の立場を表していた。クライマックスでの彼女に対するストームの嫌がらせは「ラミレスに能力があるから突っかかってくる」というマックイーンの言葉通り「男性を負かすほどの能力がある女性たちが、彼らのプライドによって不当な扱いを受けている現実」を訴えているかのようだった。

【演出】
1作目の魅力だった多様な楽曲の挿入。今回はその点も意識したのかロックやカントリーなどカーズの醍醐味を感じる挿入歌が多数。ランディ・ニューマンも戻り、温かな世界観がよみがえった。

レース中のキャラクターはもはや実写の車に見えてしまうほどの重量感と臨場感。CG技術やライティングがすごい。

【ただ…、マックイーンが残念】
序盤の掴みは良かったものの、トレーニング施設からクレイジー8ダートレースまでの前半が、自分にとってはつまらなかった。特にマックイーンの描写がブレブレ過ぎて気になる。自ら希望したテクノロジーを拒否する矛盾、自ら希望したビーチ訓練に怒る矛盾、自ら希望したダートレース後ラミレスに怒る矛盾。これだけ続くとさすがに…。その矛盾が結果的にそのシークエンス自体の無意味さにも繋がっている気がする。

【ラミレスの魅力も…】
もう一方の主役であるラミレスにも魅力が感じづらく、彼女のコメディーも機能していたようには思えなかった。また「ストームより勝る何か」を描いてはおらず、取ってつけたような結末にも思え…。(先述の通り、彼女の背景は良かったので残念)。「実はレースの実績があったが男たちに追いやられ、出場がトラウマになっている存在」だったらまだ納得できたかも。

【総括】
スタッフ欄を見ても多くの脚本家が関わっていて、脚本が難航したんだろうと思わされる。スモーキーと出会う前の無駄さと、出会ってからはノンストップで進む物語のギャップが印象的だった。

それでも、前作の失敗から「1作目に戻るんだ!」という趣旨の元、弧を描くように回帰していった物語に感動もした。なにより、人気キャラの「お決まり」を破って、今作のテーマを描いた事には意義がある。そのテーマ自体は満点。それも相まって残念な点の多さに反して好きな作品。
HicK

HicK