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バッカス・レディのNMのレビュー・感想・評価

バッカス・レディ(2016年製作の映画)
4.0
他のどの映画とも似ていない。
バッカス・レディとは特定の地域で性を売っている女性のことだが、どちらかというとヒロインがそういうハードな仕事をしているというぐらいの設定で、別に性問題を中心に掘り下げる話では全然ない。特に後半は別のテーマで、そちらがメインだと思われる。

ソヨンは若い頃はお手伝いさんなどをしていたものの、夫の暴力で離婚ののち、生活できなくなり仕方なくこの仕事を始めたらしい。
もちろん日々の仕事は楽ではなく、客の対応も大変だし、ライバルたちとの競争もある。人からはさげすまれ、何の保証もなく、収入はぎりぎり。
彼女はいつもしょんぼりとした表情でうつむいて、微笑んだときすら悲しげ、うつろな目つき。両手をもじもじと触ることが多く、頭を下げるかのように背中を丸めている。
自分の力で生きるしかないと強く覚悟しているようだが、かといって自分の生き方にプライドを持っているタイプではなくむしろ心の底では恥じるような気持ちを抱えているようだ。それはこの仕事自体に対するものだけでなく、過去のあることに対し消えない自責があるらしい。
そんな経験のせいか、何事も自分ひとりで抱える傾向があるように見える。彼女が人に悩みを相談したり頼ったりする様子を想像できない。
ソヨンは偶然出会った子どもを預かってやる。彼女がとっさにその子に優しくしたのには理由があった。
命を救う一方、途中からその反対のこともするようになる。一度手を出すと少しずつ展開していってしまう。ますますうつろな表情になっていく。
ソヨンは裁判で本当の事情を話しただろうか。生活のこともあり、もしかすると容疑をそのまま認めてしまったのではないだろうか。
私には彼女が本当に悪いとは思えないが、いつ見つかるかわからないし、不安や後悔はずっと付きまとう。普通余程の理由がなければしないだろうし、ソヨンの言う通り「どうかしていた」のかもしれない。
ごく普通でもあるし、普通じゃないとも言える彼女。しかし完全にまともでどんな時も間違えない人間が果たしてどれほどいるだろうか。
彼女もやがてはその生涯を終える。ひっそりと。哀れな人生だという人は多いだろう。しかし私には人の人生を哀れだとか幸せだとか、何も知らない他人が勝手に評価していいものとは思えない。
「あの人にも事情があるんだわ 本当のことは誰にもわからないもの 外側だけで決めつけるのね」
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