つう

許された子どもたちのつうのレビュー・感想・評価

許された子どもたち(2019年製作の映画)
4.5
『大人も子供も、そして観客すらも当事者に巻き込む社会の歪みを描く』

中学一年生の少年グループのリーダー格の市川絆星はクラスメイトの倉持樹を日常的にイジメていた。イジメは次第にエスカレートしていき絆星は樹を殺してしまう。警察に連行された絆星は少年審判では不処分として許されてしまうのだった…

この作品のベースになっているのは『川崎市中一男子生徒殺害事件」
少年法で守られたのを憤った形でプライバシーを守られていた主犯格の少年の顔写真と実名が週刊雑誌に掲載されたり、主犯格少年の自宅にニコ生主のノエルが生配信しながら押し掛けるなども問題になった事件ですよね。

事件の舞台となった作品の目と鼻の先にある川崎チネチッタで観たっていうのは。感慨深いので、そういう意味では映画体験という意味では川崎チネチッタで観るのがおススメかも。

まず、率直な感想としては。
韓国の『パラサイト』フランスの『レミゼラブル』アメリカの『ジョーカー』そして、今作の『許されたこどもたち』と並んで語られる作品だと言える傑作だと思います。

よくパラサイトと比較されがちな邦画って是枝監督の『万引き家族』を引き合いに出されると思います。
でも、この『許されたこどもたち』を鑑賞した後には『パラサイト』と並べるならコッチだなと感じました。

パラサイトも万引き家族もそうなんですけど。確かに格差社会っていう部分を映してるっていう部分では共通点だとは思います。

でも、パラサイト・レミゼラブル・ジョーカーっていうのに根柢にある感情って「怒り」なんですよね。そういう意味では「万引き家族」がまとっている感情って哀しみとか切なさだったりするんだと思うんですよね。

そういう点において、この「許されたこどもたち」は「怒り」なんですよね。

絆星も性悪説的なキャラクターではなく、それは環境的に作られ歪んでいったというのを描いてて。もちろん、それで許されるワケでもないんですが。そういう連鎖の中に巻き込まれていってボタンの掛け違いが雪だるま式に膨れていくというのが、どうしようもない「怒り」に変換されて描かれるってのが。なんとも言えない後味になってますね。

「先生を流産させる会」は加害者である学生側の視点で描かれていって。
「ミスミソウ」はイジメられっ子の視点から描かれていくんですよね。

「許された子どもたち」では、その両面から描く上に、さらに当事者ではない外部の視点も加わって、内藤監督の積み重ねがキチンと形となって観れるようになってるんですよね。

あと秀逸なのが中学生ってのが、曖昧さを描くのにメッチャ適してて。元になった事件も同じ中学生なんだけど。小学生ほど子供でもない。高校生ほど大人でもない。その大人と子供の狭間にある「怖さ」無知で無垢で残酷だからってのを描いてて、それが角度によっては正義だし。角度によっては悪なんだというのを上手く描いてます。

そして、それを加速させたり歪ませてしまう社会の構造と大人の役割。

それがあるおかげで、大人も子供も加害者も被害者もボーダーラインが消えていって、混ざり合って大きな渦になっていくのをエッジの効いた演出と音楽で魅せていくので。社会派映画なんだけどエンタメとしての演出も利いてて。そういう虚実が入り混じる感じは『ジョーカー』的とも言えるかもしれないです。

そして、有名俳優に頼らずとも俳優の演技は素晴らしいの一言。
絆星役の上村侑くんは「村上虹郎」「柳楽優弥」を彷彿とさせる空気感もあって素晴らしかった。なんと言っても目ヂカラがハンパなかった。

今回の映画撮影用に行ったワークショップにて初めて演技をした子もいながら、当て書きか?っていう感じるくらに皆、役にハマってる。

あと個人的には劇中で絆星が喫煙・飲酒シーンがあるんだけど。
それが良かった。こういうキャラ付けに大事なアイテムがポリコレを意識してか最近は描かれにくいだけにキチンと活用されてるのも良かったし。

そこにもキチンと意図があって演出にも繋がってて唸ったポイントでした。

パラサイト・ジョーカー・レミゼラブルみたいな作り込まれた上手さとは違う。荒々しさと歪さ。不完全さ。それがキャラクターであり社会であり。この作品の良さに繋がっていて。
感情の爆発しそうなモノに向き合うっていうのを答えを出さないで観客に問いかけていくんですよね。

蒸し暑くなっていくこれからの季節のようにまとわりつく汗と重い空気感と同時に絶対零度のような冷たさでヒリヒリさせてくれる作品。

この2020年を代表する邦画になることは間違いないので是非、劇場で体験していただきたい作品となっています。

動画レビュー(ネタバレなし)はコチラ。
https://youtu.be/PlDLxOhn4CY
つう

つう