ぐるぐるシュルツ

サマーフィーリングのぐるぐるシュルツのレビュー・感想・評価

サマーフィーリング(2016年製作の映画)
4.2
ベランダから眺めた景色、
誰かと過ごした夏、一人で歩いた夏。

〜〜〜

『アマンダと僕』のミカエル・アース監督の前作にして、初監督作品。
大切な人を失った恋人と妹の夏だけを切り取る。
観てよかったぁ。

登場人物の心情にぴったり寄り添いながらも、景色や街の雑踏、人々の営み、それを眺めて歩く姿を遠くから映し出すシーンが非常に印象的。情緒と知性のバランスのとれた、気持ちの良い距離感。その静かな映像に、ピアノとギターのアルペジオが絡みだすと、たしかに一歩ずつ心が進みだす予感がする。
そして、ベルリンの街並みも、フランスの湖畔も、ニューヨークの摩天楼も、静かに色鮮やかに優しく描きだされる。憎悪や絶望という激しい感情ではなく、無力感や切なさを伴う繊細な景色に、こういう目を持って生きていきたいなぁと強く思いました。

ロレンスやゾエは勿論、一人一人のキャラクターが自分の気持ちに当たり前に向き合うところがよい。それは欧州の文化なのか、
それともフィクションだからなのか、
僕には分からないけれど、
当たり前に外の空気を吸いたくなるし、
当たり前に取り乱してしまったり、
そうやって自分の感情が揺さぶられてしまうことをしっかり把握していて、
しかも周りも理解している。
素朴で素直で自然な感覚。
僕らの日々の生活では、
意識せず、考えもせず、
人の感情について想いを測ることが
削がれているように思えてしまい、
身が引き締まる。
不自然だから、毎日、息苦しいのかもなぁ。

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2年とちょっと、3度の夏の間に、
悲しみはそこにありながらも、
それぞれがすこしずつ、本当にすこしずつ、
前に進んでいく。
色々な形で愛する人と別れてしまうけれど、
皆で、そっと背中を押し合う。
ライブシーンでの、振り返るゾエの微笑みに全てが現れている。凄いシーンだ。

ラストのシークエンスでは、
パリやベルリンの光景(きっとロレンスの思い出)に、今の新しい二人の日々がつながっていく。
ポスターのあの海辺にいるのが、
「あの二人である」ということの意味。

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窓やベランダや広場から
心地のよい風が吹いている映画でした。
観ようか迷っていたけど、ほんと正解でした。

映画館を出て、夜の渋谷まで歩いていると、自分の周りの人々や、過ぎていく少しうっとおしい季節が、無性に愛しく思えて、思わず大事な人に電話をかける。