emily

アイム・オール・ユアーズのemilyのレビュー・感想・評価

アイム・オール・ユアーズ(2016年製作の映画)
3.3
 お人よしの両親の元で育った30歳のハンナは何事にも「ノン」と言えない性格なのに、仕事では同僚に退職を言い渡す仕事をしている。せめてもの慰めと自分の体を引き換えにし、気が付いたら売春まがいなところまできている。父もお店をやりながらその性格から利益は上がらず、母は家で心理カウンセリングを無料で行っている。ハンナの弟ハキムだけは父の祖国であるアルジェリアの宗教を清く守ることに執着し、ハンナと衝突している。

 人への親切も度が過ぎると、そこを周りの人々に付け込まれる機会を与えてしまい、その親切が罪を作ってしまう結果を招いている。ポップな色彩でコミカルなテンポ感で綴る。過去の回想を交差させながら、兄弟の不仲の原因と、二人の抱える闇が徐々に明らかになっていく。それは子供の頃にハンナに起こった事件を二人は無言ながらも共有し、そこからまぬかれた真逆の行動の結果である。コミカルな展開の中に、徐々に見え隠れしてくる、奥深い子供の頃の悲しい物語が、作品のトーンを徐々に変化させていき、弟の移植問題により紐解かれていく。兄弟の歩みよりの利益関係の葛藤を見せながら、細部にコミカルな演出は忘れない。大切なものを大切にするためには、そのやさしさが罪になることを学ぶ。

人にやさしいのは素晴らしいことだし、だれでもできることではない。しかしそれは大切なものに向けられてこそであり、行き過ぎたやさしさは、逆に相手を甘えの罠から悪へ導いてしまう結果を招くこともある。優しさの押し売りはただ「ノン」と言えない自分の弱さから来てるのだ。それは結局本当のやさしさではない。本当のやさしさとは自分の心がそうしたいと芯から思える、愛があってこそ成り立つのだ。
emily

emily