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夜明け告げるルーのうたのyunumataのレビュー・感想・評価

夜明け告げるルーのうた(2017年製作の映画)
3.5
魅力的なシーンやセリフ、メッセージは沢山あったけれど、それ以上にやりたいことが多すぎて、全体的にごちゃごちゃしている作品。予告にあるような「少年との交流!感動作!」みたいな内容よりずっと重層的な証明でもあるのですが、ここまでだと……もっとシンプルに「中学生と人魚がバンドを組みました!」って映画で良かったんじゃないかな、と……。
クライマックスの感動劇は確かに素晴らしくて、なるほど、それで人魚なのね、と思えるもの。だけどそこに至るまでの、物語を動的にするための仕掛けがとにかく多くて、長くて、ちぐはぐしていて……。途中で現実に引き戻されるには、十分すぎるほどだった。詳しくはネタバレになってしまうけれど、途中のエピソードが少々破天荒すぎたり、逆に生々しすぎたり、主人公不在になったり、味方が誰なのか判らなくなったり……。最後の30分に至っては、「カイ歌え!早く歌ってくれ!」って感じで、さあ歌い出した途端に、そうそう、これだよ待ってたのは、ってなるのに……。そのいびつさが、確かにこの映画の豊かさなのかもしれない。けれどこれで、実に110分近くもある作品なので、それこそ『夜は短し〜』のような、「素晴らしいメッセージ」に最短距離で走り抜くようなものでも、十分だったはずなんじゃないかな……。
とはいえ、隣に座ってたおじさんだけでなく、10歳くらいの男の子も号泣していたので、波に乗ることが出来れば十分な感動作なのかもしれない。シナリオがちょっと崩れて見えていることが、あまり良いエネルギーに変換されていない作品。実はぎゅんぎゅん青春バンドムービーで、実は極上のミュージカル映画なのに、あまりそこを活かせていないんですよね。陽の当たらない漁村が、その見た目の通りあまりカラッとした印象になっていない、すこし残念な作品です。

劇場(2017.05)
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