継

劇場版 嘆きの王冠~ホロウ・クラウン~/リチャード三世の継のレビュー・感想・評価

4.0
👑大英帝国の王冠の継承を縦軸に、各王の生涯をドラマチックに綴る『嘆きの王冠~THE HOLLOW CROWN 』.
本作は薔薇戦争とシリーズの掉尾を飾るシェイクスピア「リチャード三世」を、血縁関係にあるカンバーバッチが演じたものです。

身体的なハンデが “悪魔の仕業” とされた時代。
湾曲したせむしの姿勢でびっこを引いて歩く醜悪な己を呪い、 “悪人王に、オレは成るっ!” とルフィばり(?)に宣言する、長台詞の独白で幕を開ける物語。

最近のヒール・キャラは良心の呵責に苛まれたり、そうせざるを得ない理由を抱えて同情の余地を残してる場合が多いですけど、シェイクスピアはそんなもの欠片も与えずにww、
狡猾で, 残忍で, 情け容赦なく肉親の死屍を積み上げては踏み越えてゆく、 修羅の道を爆走するさまをひたすら描いていきます。

互いの家の紋章が赤薔薇と白薔薇だった事からこう呼ばれる、ランカスター家とヨーク家の王位を巡る30年に及ぶ戦い、薔薇戦争。
在位わずか2年と47日で戦死する英国史上最凶のヒールは、ダークなその存在感を持ってして光たるヘンリー七世をより引き立たせ、媚びる事なく悪の限りを尽くして王冠を手中にするやいなやあっという間に散ってゆく…その姿には却って潔さを感じてしまうほど。
カンバーバッチの演技、そしてストーリーテラー・シェイクスピアの面目躍如と言ったところでしょうか。

リチャード三世は歴代の名優が演じてきたキャラクターで、どこか繊細なイメージを持っていたカンバーバッチでは(少し弱いのでは?) という懸念も実はあったんですけど、そんな思いを払拭する、まるで先祖が憑依したか、DNAが覚醒したような鬼神ぶり👹!
心に期するものがあったんでしょうか、彼の低く良く通る声で聴く名台詞や罵詈雑言の長台詞は凄みがあり、中々キマッていました(^^)


シェイクスピアが時の権力者エリザベス一世に忖度し、その祖父のライバルだったリチャード三世を貶めてテューダー王朝の正統性をアピールする狙いで執筆したとされる本作。

シェイクスピアには色んな別人説があって『もうひとりのシェイクスピア』という映画が取り上げている説は、リチャード三世を極悪人に仕立てた理由をエリザベスへの忖度とは全く別の角度から描いていて歴史好きには面白い作品でしたが、

何れにしても勝てば官軍。
歴史は勝者に都合の良いように書き換えられるもので、語られる悪行三昧は真偽不明のものが多く、幾多の殺人容疑も明確な証拠はないそうで「リチャード三世が殺した事にすれば都合が良い」というだけの話… 何だか、シェイクスピアの “盛り” 疑惑がチラつきますww

2012年になって駐車場の地下から遺骨が発見され本人と判明、脊柱側弯症だった事も確認されましたが服装でカバー出来る程度の軽度なものだったらしく、
復元された人相は、当時描かれた肖像画通りのカンバーバッチに似た端正な顔立ちでした。

彼の名誉を回復しようとする財団の活動や、その主張に基づき善人説を展開した歴史推理小説のベストセラー「時の娘」の影響もあって、現在は善悪の評価は拮抗して棚上げ状態。
映画『アマデウス』で敵役として描かれたサリエリは、慈善事業や後進の指導に熱心で裕福な生徒以外はレッスン料を受け取らない善人でしたが、映画ではご存知の通り…\(TДT)/
本作も今のところは、フィクションとしては優れていても「史実」とは切り離して観るべき映画なのかもしれないですね。

没後530年ぶりに再埋葬されたリチャード三世。
その埋葬式典で詩を読み上げたのが他ならぬカンバーバッチで、本作へはその思いも新たに臨んだ事になります。
暴君と呼ばれる先祖を、俳優である以前に血縁者である己が演じる、、もしかしたらその胸中には複雑な思いが去来していたかもしれず、その辺りの認識を考慮に入れて観ると、感慨深いものがあります。

公開予定の「The Current War」では、今度はエジソンを演じるというカンバーバッチ。(テスラ役にニコラス・ホルト!)
これも楽しみですネ(^^)/
継