Tラモーン

イット・カムズ・アット・ナイトのTラモーンのレビュー・感想・評価

3.8
90分代でサクッと観られるやつを選んだつもりがめちゃめちゃ考察の余地がある作品だった…!


謎の感染症により人類が激減したと思しき世界。ポール(ジョエル・エドガートン)は森の中で妻のサラ(カルメン・イジョゴ)と息子のトラヴィス(ケルヴィン・ハリソンJr.)、犬のスタンリーと息を潜めて自給自足の生活を送っていた。ある夜、ポールは家に侵入してきた男を捕らえる。ウィル(クリストファー・アボット)と名乗るその男は家族のために水と食糧を探し、森を彷徨ってこの家を見つけたと言う。お互いの家族のために取引を交わし、ポールはウィル一家を家に招き入れる。


うわー、なんだこれ。普通にホラーというかサスペンス的にグイグイ引き込んでおきながら、しかもそこらじゅうに違和感やヒントっぽいものを散りばめておきながら、1つも気持ちよく解決しないまま終わらせてきやがった。

とにかくわからないことだらけなんだけど、観終わって一番気になったところは"It Comes At Night"ってタイトルの"It"。
なにも考えずに受け取れば"It"=感染症なんだろうけど、そもそも病気のウイルスが夜にだけ襲ってくるってあり得なくない?実際劇中でも感染のリスクがあるシーンでは日中でもみんなガスマスクや手袋を身に付けているし、設定としても夜だけに襲ってくる感染症ではなさそう。

それじゃあ"It"って何かって考えたら、極限状態から来る緊張や恐怖、疑念や執着、猜疑心、精神異常とかそう言ったものじゃないかな。
それが最も顕著に現れてるのがトラヴィスの見る悪夢でしょう。

両親のように排他的になりきれず、冷徹にもなり切れない心優しいトラヴィスは、家族のためならと鬼になれるポールのようになることができず、このアポカリプスな世界で精神的に孤立していたと思う。冒頭で感染したが故にやむを得ず殺処分される祖父バドがトラヴィスと仲が良かったことを示唆するような描写もある。
しかも年頃の17歳だというのに、こんな世界ではガールフレンドもできない。そんな中共同生活を送ることになったウィル一家の妻キム(ライリー・キーオ)がめちゃくちゃ魅力的ときた。
極め付けは可愛がっていた愛犬スタンリーの失踪。

トラヴィスがイカレるのに材料は充分だ。

ウィルの息子アンドリューの感染が疑われたのが怒涛のラストの発端のひとつでもあるんだけど、ラストシーンのバッドエンドな大オチから考えるに、そこに対するポールの疑念は家族を守りたい一心から来る周囲が見えなくなった人間の恐ろしさというか愚かさにすら見えてくる。

"夢遊病か?"

ストーリー的にはここが納得のしどころなのかなという気がするし。悪夢は悪夢なんだけど、後半のは現実だったんだろうな。

これは考察を読んでから観直したので気がつけたんだけど、トラヴィスの悪夢の最中には画面のアスペクト比が狭くなっていて、目が覚めると元に戻っている。
でも終盤のポール夫妻とウィル夫妻の狂気が露呈するシーンで徐々にアスペクト比が狭まっていく。現実世界のことなのに。

これはトラヴィスが恐れていた恐怖や狂気が現実になってしまったことを示唆しているのかな…。


いずれにしても病気や感染症そのものがなんだったのかという点は主題ではなく、そこからくる人間の極限状態での精神や関係性の変化がテーマだったことは間違いないね。生に執着した人間はあんな風に鬼になれるのかな…。と思いつつラストシーンの2人の表情は鬼とはかけ離れていて印象的だったな。

かなり理解するのに難しい作品だけど、公式HPに載ってる映画アドバイザーのミヤザキタケル氏の考察はかなり参考になると思います。

久しぶりに観終わってからめちゃくちゃ頭つかったな〜。

これコロナ前につくられてるんだな。
ここまでじゃなかったけど、病気じゃないところの敵が多かったのは事実だね…。
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