Yoshishun

ハウス・ジャック・ビルトのYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

ハウス・ジャック・ビルト(2018年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

カンヌを出禁になった鬼才ラース・フォン・トリアーによる、ある連続殺人鬼の告白。
60人も殺害した男が特に印象に残ってるという"5つの出来事"を基に、人生とその末路を見ていく。謎の老人・ヴァージとの語りと共に、まるで1人の殺人鬼に関するドキュメンタリーを観ているような感覚に陥る。

前述しておくと、恥ずかしい話、人生初トリアー。過去作を観てから臨みたかったものの、時間が無かった。劇中でも過去作の映像が流れるなど、監督の集大成に丸腰で臨んでしまったのは大きな失態だった。

本作がR18+指定を受けてしまった最大の理由は、やはり非倫理的・非人道的な描写が多いためだろう。ほぼ全パートで女性を無惨にも殺害し、3つ目のエピソードに至っては、子どもにまで手を出し、挙げ句の果てには死体で芸術作品を作り上げてしまう。これを平然とただ撮り続ける監督は異常である。

全エピソードに手持ちカメラのような揺れ方があり、現実でのジャックの心情を表しているかのようだった。殺人を犯す前はやたらとブレと長回しが続くことで、平静でいられない彼、殺人後は長回しこそあるものの、少し落ち着いたかのよう。そしてまたその繰り返し。強迫性障害を持ち、殺人後の証拠隠滅のために何度も部屋を訪れるシーンも長回しが多く、ジャックの非倫理的すぎる行動をずっと眺めることになる。かなり悪趣味なのは殺人の直接的描写ではなく、殺人後の処理。見せなくてもいいものをカメラが見せてくる。カンヌで途中退場者が出るのも頷ける。

面白いのがドキュメンタリー風な演出が多いのにも関わらず、終盤では何とか警察の手から逃れたジャックが、謎の老人ヴァージによって、神の領域へと導かれるファンタジーである。名画に交じり、罪人として放浪し続ける彼の末路には爆笑した。文字通り、地獄に落ちる。そして、彼の再来を拒絶する歌……現実では悪魔に等しい存在となった彼への天罰が中々残酷ながらも可笑しい。

どこかドキュメンタリーな世界観は連続殺人鬼の凶悪性にとてもマッチしていたが、ファンタジー演出は従来のB級映画並であり、急にやる気を無くしたようで少々ガッカリした。また、チープさが目立つのはその死体にもあり、わかりやすいほどに肌が蒼白で、腐っているものよりも人形に見えてしまったのも惜しいところ。

あと、全体的に冗長に感じてしまった。考えてもみれば、本作は数ある殺人の中でも特に印象に残ったものを5つ無作為に観客に提供している。ただ個人的にはその5つに絞り込むほど、それらの殺人が彼の人生に影響を与えたとはどうしても思えない。

主演のマット・ディロンをはじめとした豪華キャストの怪演はとても良かったが、ストーリーが個人的には納得できず、少々モヤモヤした。18禁ならではの暴力描写が満載なこと以外、特に印象に残らず。
Yoshishun

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