緋里阿純

ワイルド・スピード/ファイヤーブーストの緋里阿純のレビュー・感想・評価

4.5
大ヒットシリーズの完結編として、前後編の二部作で描かれる前編。
過去に倒した敵の息子が長い年月を掛けて積み上げた執念から、無敵のドミニクファミリーを次第に追い詰めていく。

初めに本作の感想を簡潔に述べておくと、「ツッコみたい箇所は山ほどあったけど、とりあえず最高ー!早く次が観てえー!」だ。
開始早々、『説明は後だ!ついて来い!』と引っ張られたと思ったら、目まぐるしく展開されるストーリーとアクションの連続に、終わった後『で、何か質問は?』と問われるも、「いや、言いたい事は山ほどあったんだけど、もうそんなのどうでもいいや!最高ッ!!」としか答えられない程、振り切れぶりが気持ち良い。

最早、このシリーズは映画界の“ラーメン二郎”(食べたことはない)ばりの野菜&アブラマシマシの特盛りバカ映画と化しており、それが最大の売りだ。完結編では、いよいよその限界に挑むと言った印象。
同じく車が重要なアイテムとなる2015年の『MAD MAX/怒りのデス・ロード』が、作品の構成要素や台詞を引いて引いて、最後に残った物で作り上げた【究極の引き算】であるのに対し、今作は言うなれば【究極の足し算】。とにかくありとあらゆる要素を足して足して、ラストには驚きのサプライズまで用意されているという満腹の1本だ。

元はと言えば、第5作目の『MEGA MAX』終盤で描かれた、車とワイヤーによる巨大金庫強奪計画から一気にシリーズの荒唐無稽さに拍車が掛かった。以降は回を増す事に、車で(車で!)戦車や貨物機、潜水艦等と死闘を繰り広げ、遂に前作『JET BREAK』では車にロケットを取り付けて宇宙に行くという、ある種の到達点を見せた。

また、このシリーズは、過去作で亡くなったと思われたメンバーが後付けによって復活したり、倒した敵が仲間になるという『ドラゴンボール』的な少年漫画方式を採用している。
初めは、ドムの恋人レティが任務中に殉職したが、実は記憶を失くして生きており、敵チームの一員として立ちはだかるというものだった。それ自体は、レティの死の描写を明確に描いていなかった事もあり、理解出来ないものでは無かったし、何だかんだ主要メンバーの復活は盛り上がりもした。
だが、それに味を占めたのか、以降は「いや、お前絶対死んでたろ」といった描かれ方のハンを復活させたりと、最早このシリーズでの主要メンバーの死は、後でいくらでも「実は生きてました」と復活させられる一種のお約束と化しており、今作でも終盤にそういうシーンがキッチリと用意されている。
前述したハンの復活は、かつて敵役として対峙したショウ一家を味方に引き込み、更なる盛り上がりを演出する為のものであるのが明白だからタチが悪い(褒め言葉)。
また、前作ではドムには弟までいたという「これぞ後付け!」と言わんばかりの清々しい新キャラまで敵として追加し、お約束通り仲間になったりと、真面目にツッコむのがバカバカしくなってくるが、それが魅力と化してしまっているのだから凄い。

今作では、そんなシリーズの転換点とも言える『MEGA MAX』のラスボスであるレイエスの息子ダンテが、陽気な振る舞いの中に確かな狂気を孕んだ復讐の悪魔として立ちはだかり、何だかんだ今までずっと無敵感のあったファミリーをしっかりと追い詰めていく。
そんなダンテを熱演したジェイソン・モモアの演技が凄まじい。彼の代表作である『アクアマン』とは打って変わり、今作では用意周到な計画で常にドムの上を行くサイコな敵役だ。まだまだ奥の手を隠していそうなところも次回を楽しみにさせる。

個人的には、主要キャストの1人であるポール・ウォーカーの急逝によるシリーズの存続が危ぶまれた際、ポールの弟による代役とCG処理によって、現実のキャストの死と作中での家庭に入る事によるチーム離脱を見事にシンクロさせ、旅立ったキャストに最高の別れを告げた7作目の『SKY MISSION』で完結させるのがベストだったとは思う。
だからこそ、『ICE BREAK』からは番外編として捉えて楽しんでおり、気持ち的には一段冷めた状態で観てきた。

しかし、フィナーレを飾る今回の2部作は、バカ映画に出来る究極の到達点を目指している様子で、ここまでやってくれれば寧ろ清々しいし、楽しまなければ損という仕上がりだ。また、このシリーズ本来の特徴であるストリートレース要素や、カーチェイスアクションと、重要な部分に立ち返ろうという姿勢も好印象。
ラスト、まさかのキャストの復活から、エンドロール途中で更なるサプライズと、次回が楽しみで仕方ない。
特にあの人は、もう本編での活躍は描かれない(キャスト間の対立の意味で)と思っていただけに、まさかの登場にテンション爆上がりだった。ドムと直接絡むのは難しいかもしれないが、活躍が約束されているだけで嬉しい。

このシリーズがどのような完結を迎えるのか、心待ちにしている。…まぁ、最後は皆で食卓囲んで、お祈りしてビールで乾杯だろうけど(笑)
緋里阿純

緋里阿純