荒野の狼

セザンヌと過ごした時間の荒野の狼のレビュー・感想・評価

セザンヌと過ごした時間(2016年製作の映画)
5.0
2016年のフランス映画で原題はCézanne et moi 「セザンヌと私」。「私」にあたるのが作家のエミール・ゾラ。セザンヌとゾラの関係は映画「ゾラの生涯」の冒頭で、貧しいい部屋に同居する若き日の二人のシーンが登場するが、本作では中学校時代からの二人の交流が家族らも含めて描かれている。登場場面はセザンヌとゾラが半分づつくらいで、両者の作品も随所に名前などはでてくるが、話の中心は二人の友情と、名声を得たゾラと無名で晩年にいたるセザンヌの対照。
セザンヌの絵になじみがある人でも、本人の私生活・交友関係については触れる機会は少ない。2019-2020年に日本で開催されている「コートルド美術館展」ではセザンヌが大きく取り上げられており、そのカタログを読むと、映画でも描かれているようにパリではなくエクス=アン=プロヴァンスで自然の中で絵画制作をしていたことなどがわかる。同展覧会にも出品されている絵にサント=ヴィクトワール山のものがあるが、映画では途中にちらりと山が登場しそれを見上げるセザンヌが映し出されシーンがある。いつ、この山を描いた作品が映画に登場するのかと、期待させておいて、ラストシーンでセザンヌが画面から歩き去ってしまってから、ゆっくりカメラが回りサント=ヴィクトワール山が、セザンヌが描いた角度でうつしだされたところで静止しエンドロールとなる。エンドロールでは実際の山が、次々にセザンヌ自身が描いた山の絵に変わっていき最後まで目が離せない。他にも、エクスの美しい風景がセザンヌの絵画そのままに撮られているのが本作の大きな魅力。セザンヌの絵は、そのタッチから木の葉の揺れまで感じさせるものがあるが、本作では、実際に映像上でセザンヌが見たものと同じ風景で木の葉が風にそよいでおり、特に感動を呼ぶものであり、本映画を見た後では、セザンヌの絵画鑑賞に興味と深みが加わるほどの素晴らしさ。
映画の登場人物としては、年長のピサロから、セザンヌが嫌ったマネ(「草上の昼食」が落選者のサロンで展示される様子も登場)、画商のタンギー爺さんなども短い時間ながらセザンヌと絡んでくるので、この時代の人物関係がわかって楽しい。
ゾラについては、セザンヌをモデルにした(実際はマネも)著書「制作」については、内容も含めて紹介されている。他には彼が写真撮影をしていたことや、婚外子についてのシーンがある。彼が社会正義のために闘ったドレヒュス事件については、短く触れられるのみである。ドレイファス事件も含めて、ゾラの人間的な素晴らしさ・苦闘を知りたいという人には、映画「ゾラの生涯」を勧めたい。
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