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アネットの8637のレビュー・感想・評価

アネット(2021年製作の映画)
3.9
とんでもないものを観た、の「とんでもないもの」の実体すら誰にも分からぬまま、レオス・カラックスを見進めた。彼の完璧主義、毒々しさ、エンターテイメント。呼吸禁止の対価に見せられたものは何もかもが初めてだった。

表面的には全て興味深いし、映像の深みも大好きなんだけど...個人的な感想としては序盤がピークだな。濃密なのに長尺。船の件から眠くなってしまったこともあるけど、音楽とストーリー性が複雑に絡み合う前の方が好きだったのかもしれない。
単純にスタンダップコメディの笑いが日本のそれと違いすぎるし、そのシーンが核になって長いから飽きる。

アネットはヘンリーの"操り人形"(物理的)かと思えば人間化して堂々と歌い上げたりと、チャレンジングな演出が多すぎた。
特に全編がミュージカルって、急にとんでもないジャンルに飛び込んだよな。「Tommy/トミー」を観ていたから驚きでついていけなくなることは無かったけど。しかし現実とは明らかに一線を画してしまう。勿論意図的なんだろうけど。舞台上のヘンリーに観客全員で歌いながら問いかけるなんて本当はあり得ない話だ。だが、だからこそなのか、特異的な状況に興奮も起こる。そうやって全編の躍動感は生まれるも、どうしてもまとまりがない感じに。画面内からどんなに煽られようと観客までは呼応しづらい。

後は全て、パンフレットを一読してからの解釈。俳優に生で歌わせたい理由が黒沢清監督から聞けるのが強いし、様々な監督・評論家が独自の先入観ながらもこの映画を理解しきっているのが凄いと思った。アダム・ドライバーが往年のドニ・ラヴァンのように猿みたいな表情だ(先日の舞台挨拶より)と監督が言うのも分かるな。
美しかったんだな、というのは後で思い返してしっくり来たことだ。懲り懲りしたはずなのに、またすぐにでも見返したくなった。
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