jonajona

心と体とのjonajonaのレビュー・感想・評価

心と体と(2017年製作の映画)
4.5
夢の話に絡める導入が
かなりひねりが効いてて面白い。
心理カウンセラーに夢の内容を職員が聞かれた結果2人の男女が同じ『鹿になって雪林を漂う夢』を見ていることが判明する。
あくまで話は現実がベースになってて、夢は他者とうまく接することができない孤独な2人の内面のメタファーと取れる程度の存在感に収められてる。

まず食肉加工工場というあまり見たことない場所の内側をみるショッキングさで目を引くあたりも構成的に見事だと思う。いたって普通に必要な残酷な作業をする、人間の存在について考えちゃう。本題に入る前に視野が広がる感がある。

一方は同僚の友人はいるものの他者との密接な関わりは避け、恋愛など隣の芝生、最近は会社の若いチャラ男が女と喋るのを見るとムカムカするという枯れたムードのおじさま。
工場で事件が起きて訪問してきた色気のある心理士の胸元をつい見ちゃう位に収まりきらない欲はまだあるものの、そんな自分を認めるのも嫌でネチネチした言い訳を繰り返して嫌われてしまうようなおじさん。

一方は、ロボットのような鉄仮面と仕事ぶりでルールから少し外れると融通が効かず食肉工場の肉をすべて規定外にしてしまう検査官の若い女性。もちろん総スカンを食らう。一応ご飯に誘われるが愛想なく断り誰も寄り付かなくなった。こちらはより重度のコミュ障で、社会適合障害といえるものなのかもしれない。本人は必死なのに仏頂面で気付けば敵ばかりになる、そんな女の人。

コミュニケーション障害を乗り越える過程を『本当はもっと誰かと一緒にいたい、人に自然と寄り添いたい』という潜在願望の夢の世界と並行して描くことで、実際には不器用すぎてチグハグな2人の現状と本心の両面を同時に写し出すことに成功してるように思う。裏を返せば内面の孤独が似たもの同士であっても夢という共通項に気づくことがなかったら出会えなかった2人なのかもしれない…

願望充足という夢の役目も十二分に活かしたプロットでシンプルで強い。

コミュニケーションや人との関わり、感情の部分に焦点を絞った造になってるのがわかりやすい。
そのためか夢のドラマとしてとかさておき普通に不器用な人同士の恋物語として感動させられる。そこも美点だと思う。

際限なく広げようがある題材でありながら『鹿の夢』て形で夢のモチーフを1つに限定してるのがとても効果的に働いてる。

場面も職場と互いの寝室。夢の中の森という場所に限定されていてその分描くことの深掘りができてるような印象。

両方人とのコミュニケーションに不全を抱えているのが、なんかめっちゃ分かるわぁ…て職場にうまく馴染めない人間の自分としては共感がすごかった。

特に彼女のほうのキャラクター性がかなり特殊で面白く現代的とも思える。
彼女は一見すると無感情症のようなコミュニケーション障害を抱えていて、同時に多分他の疾患も抱えてる。サヴァン、社会性障害など。人付き合いも避けて融通が効かずルール通りにこなそうとするが現場ではロボット扱いで小馬鹿にされる。鉄仮面を貫く彼女だが内心はもっと人と上手く関わりたいと思ってるし、自分の心の内を理解してくれる相手を探してる。なにより触れ合いたいのだ、誰も彼も遠ざける言動を繰り返す彼女だが内心とても触れ合いたい。
誰でもいいわけではなく、同じくらいの孤独な人と分かち合いたい。
それが夢の中の鹿となった自分にはとても自然なこととしてできているのだ。

最後の方の彼女のがんばりと必死さ(文字通りの死ぬかもしれない状態)には泣かされそうになった。
終盤の風呂場で自殺を試みるシーンでは、彼女がリストカットした血塗れの腕をほっぽっといて電話が鳴ったら即座に出ていたって普通に対応してるのがサイコパスのそれで、同時にそのサイコさが故に自分の生死を超えるほど切実な思いで普通に電話をしてるという名シーンに仕上がってる。
ここはほんとによかった。

なにもちょっとへんな人がみんな殺人鬼のサイコパスじゃないんだよ、ほんとね
あと、彼女が1人で男との翌朝の会話をLEGOの人形でシュミレーションしてるのかわいすぎて悲しくて大好き。あなたは美しい、てセリフがいいよね。そんな真っ直ぐな言葉が言いたかったんだ…なんてピュアなんだって赤面した。

側から見てたら感情がないようなギクシャクした人だって、本当は中は嵐なんだよなぁ…
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