Solaris8

はじまりの街のSolaris8のレビュー・感想・評価

はじまりの街(2016年製作の映画)
4.2
11/23 岩波ホールで「はじまりの街」を観てきた。映画は、夫のDVから逃れた母と息子が、母の親友を頼り、ローマからトリノへ移り住み、人生の再出発を始める。

トリノでの再出発を迎えるに当たり、住居は母の親友が自宅の空き部屋を貸してくれて、母の就職も決まり、一見、順風満帆な船出に見えたのだが、息子には、中々、友人が出来ない。

ローマに住んでいた時にサッカー好きで活発な少年だった息子が、孤独を抱えながら晩秋のトリノの街を当てどもなく、自転車で駆け回る。

13歳になる息子は、閉塞感の中でも、気丈に振る舞い、母への思い遣りも持ち合わせるが、時には母へ苛立ちもぶつけてしまう。母親も新生活の中では余裕を見い出せない。

トリノでの新しい時間を共有する隣人は三人いて、演劇の仕事に打ち込み、明るい性格だが長く独身を貫く母の友人、セリエAの元サッカー選手ながら交通事故で死亡事故を起こした過去を持つビストロ店のオーナー、息子と同い年ぐらいの弟が居る、所謂、ストリートガールで、何れも孤独を抱える。

小さな家族の苦悩の時間が映画の殆どの時間を占めるのだが、寂しさを共有する隣人達同士の歯車が何時までも噛み合わない訳が無く、希望の光が差す瞬間が必ず何時か、やって来る、そんな映画だった。

東京も初冬の趣で、岩波ホールが在る、学生街の銀杏の落ち葉が積もる街並みが、映画の中の初冬のトリノの街並みに重なって見えた。

ユーロ特有のドーム式駅舎のトリノ駅、ポー川のアーチ橋やトリノ市街を見下ろす熱気球の映像も北イタリアらしく、二人の女優の演技とエンディングで流れる主題歌が、イタリアの伝統的な人生賛歌を感じさせるようで静かで美しい映画だった。
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