ソラアユム

シェイプ・オブ・ウォーターのソラアユムのレビュー・感想・評価

5.0
カタルシス


声を出せない女性と半魚人の交流を描くファンタジー作品。

これはやられてしまった…
デルトロ監督の作品は大好きなんですが直近の作品『クリムゾンピーク』が個人的に全くハマらないこともあって、今作の鑑賞を先送りにしていた節がありました。アカデミー賞作品賞という名誉を与えられたという事もあって(作品賞の作品でとびきり面白かったものがない)期待しつつも一抹の不安を抱えながらいざ見てみたら、地域の都合があったにせよ劇場スルーした事を激しく後悔する程に、凄く好みの作品でした。

ストーリーは古典的な『美女と野獣』モノに対してある種のカウンターとも言える内容でした。アカデミー賞作品賞を受賞した事もあって硬派なタッチの作品を想像していたんですが詰まる所今作はデルトロ監督の超個人的な作品と言えそうです。

冷戦下アメリカのマイノリティの扱いを通してトランプ政権下アメリカの移民排斥問題へ一石を投じる作品であるとは思いますし、その部分が作品賞受賞へ大きく貢献したのは間違いないと思います。ただ、やっぱり監督の真の目的は違う所にあったようで、こういったアカデミー賞的なメッセージの部分は未消化なまま終わっている印象でした。

今作の素晴らしさは何と言っても監督のモンスターへの愛と造詣の深さ、世界観でしょう。

デルトロの真骨頂であるクリーチャーデザインもさる事ながらモンスターへの愛をイライザのラブロマンスとして表現して見せたのが本当に素敵だなと思いました。

世界観も大変好みでした。
青と緑を基調としたあえて夜に映える選色センス。風船、バス、控え室のロッカー、全てが青緑青緑青緑。
水の表現もお見事。
透き通るような水ではなく、濁った水が多用されている。汚い表層部分と息を呑むほど美しい深層の対比。

締めの詩は吹き替え版の方が心に響きました。

“たとえあなたの姿が見えなくても
私の周りにあなたを感じる。
あなたの存在は私の目を愛で満たし、心を 和ませる。なぜなら、あなたは何処にでもいるから”

真の意味でのカタルシスというのはこういうラストの事を言うのでしょう。冒頭のナレーションで謳っている通り今作は真実と愛と喪失の物語。形なきもの、言葉で表せないものにこそ価値があるという監督の熱い思いに大変共感しました。
今年暫定ベストの作品です。

再鑑賞日:2023/9/3