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あゝ、荒野 後篇のoldmanSEヨKのレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 後篇(2017年製作の映画)
4.6
【ネタバレなし】既に販売&レンタルが開始されている中、ちょっと我慢してようやく映画館で鑑賞。
各人物の背景や心情を丁寧に描写した分、前篇から比べるとスピードダウンした印象を受けました。
そして、もう新宿新次(菅田将暉)が矢吹ジョーにしか見えない!いい意味で、です(笑)

ざっくり分けると、前篇の主人公は新次(菅田将暉)後篇は建二(ヤン・イクチュン)という、本当に微妙ですが比重の差があったように感じました。
そして前篇は比較的分かり易い映画(物語)の文法だったのが、後篇のクライマックスにかけての展開はもう、

「理屈(頭)で考えても無理だ!」

…でした。
もしかしたら本来の原作の即興性が強く出たのでしょうか。

作品ではハッキリと語られませんでしたが、敢えて個人的な穿った推理ですが、建二に対する幼少の頃から父親の強い暴力は、実は建二にとっては唯一のコミュニュケーションであり世間との繋がりだった。時にはその中に愛すら感じていたのかもしれなかったのではないでしょうか。
映画では本当に嫌な父親像としか描かれていませんでしたが、建二の心の中での父親の描写を観てみたかったです。
それは寺山自身の母親との関係と類似した、或いは一部に近い感情なのかも。
(そういう意味では他の登場人物達の親との関係も、皆、その断片を担っていると言えなくもないように感じます)
最早すっかり社会の弱者になり、身体も弱ってしまった父親。
気がついてみたら既に彼を追い越していた…
そんな父親と入れ替わるがごとく、建二の前に現れたのが圧倒的な力を持った新次だったのではないでしょうか。

いい生活環境も、女性からの誘惑も彼の心には届かない…
もうどうしょうもなく不器用に育ってしまった…。
(そうなる運命でしかなかった…)

そんな彼からようやく発せられる言葉が、まさに彼の拳闘スタイルである、耐えて耐えて耐えて一瞬の透きをついて繰り出すパンチの威力そのもので、彼の言葉が発せられる度に心にズシン!と響きました。

今作から不意に登場するジムや介護施設のオーナー石井(川口覚)通称”二代目”。
時間的には他のサブキャラと同列ですが、ちょっと不思議な立ち位置でした。
時々発せられる言葉から、もしかすると…?でしたが、そこら辺はハッキリと描かれてはいませんが、どちらにせよ建二に片思いであり憧れを持ちます。
彼に対しては子供の頃の純粋な気持ちになれたのでしょうか。
もう少し建二との絡みのシーンを観てみたかったです。

前後篇通して、ちょっと違和感を持った自殺防止サークルやデモ隊やテロ。
おそらく、原作当時の学生運動の殺伐とした雰囲気を出したかったのだと想像しますが、予算の関係でしょうかちょっとボリューム感不足で、反ってむしろ奇妙(異質)さが、作品の中では不協和音な存在になってしまったように自分は感じました。
仮に、本筋の結末と上手い具合に共鳴していたら…

「君は今どこにいるんだ?全身全霊で魂を燃やしているのか?」

と、観ているこちらに問いかけるような強烈なメッセージとして作用していたのかも…

個人的にはラストが不満です。
現代の設定で敢えて蘇らせたのなら、より現代的な解釈の別のラストの可能性もあったんじゃないかな…と…考えてしまいます。
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