サマセット7

アナと雪の女王2のサマセット7のレビュー・感想・評価

アナと雪の女王2(2019年製作の映画)
3.9
監督は前作同様、クリス・バックとジェニファー・リー。
ジェニファー・リーは脚本も兼ねる。

[あらすじ]
前作の3年後、雪と氷の魔法の力を使いこなし、アレンデール王国を平和に治めていた女王エルサだったが、やがて自分を呼ぶ不思議な声が聞こえるようになる。
ある夜、エルサはその声に導かれ、風、火、水、大地の精霊を覚醒させてしまい、王国は大混乱に陥る。
妹の王女アナ、その恋人クリストフ、トナカイのスヴェン、雪だるまのオラフは、エルサと共に、事態の収束のため、精霊が集うと言われる、霧に閉ざされた魔法の森へ向かう。
そこは、かつてエルサとアナの両親が語っていた、王国と因縁のある場所であった…。

[情報]
ウォルトディズニーアニメーションスタジオによる58番目の劇場用長編アニメーション作品。
前作アナと雪の女王の直接の続編に当たる。
ディズニーアニメーションスタジオは続編をよく作るが、ピクサースタジオと異なり、ほとんどは劇場公開せず、OVAとしてビデオ販売するか、近年では配信オンリーとなることがほとんどである。
今作は、珍しい続編の劇場公開作品となる。

前作は、現代的なテーマと「Let it go」をはじめとする超絶名曲の数々が噛み合い、社会現象とも言えるメガヒットとなった。
今作でも、監督のクリス・バック、共同監督兼、脚本のジェニファー・リー、音楽担当のクリストフ・ベックとロペス夫妻といった布陣は踏襲されている。

原作はアンデルセンの雪の女王だが、前作自体、完全に別物であり、今作に至っては、オリジナルといって良い。

ロペス夫妻が今作のために新たに書き下ろした「イントゥ・ジ・アンノウン〜心のままに」は、アカデミー賞歌曲賞にノミネートされた。

1億5000万ドルの製作費で作られ、14億5000万ドル超の大ヒットとなった。
批評家の支持率は前作ほどではなく、やや評価を落としたように見える。
一方、一般観客からは熱い支持を集めているようである。

[見どころ]
前作でなし崩し的にうやむやになっていた、エルサの「魔法の力を持つ者としての、本質的孤独」に向き合う!!
そして、アナの「力を持たない者に何ができるか?」という問題意識も掘り下げられる!!
前作ファンは物語が補完される、かも!?
相変わらず、アニメーションも音楽も最高品質!
姉妹とオラフ、クリストフら前作キャラクターたちの掛け合いは、見ているだけで楽しい!!!

[感想]
楽しんだ!

あの大ヒット作アナ雪の続編を作るなら、どうするか。
製作陣は、アナとエルサの姉妹の、残された課題を追究することにしたようだ。
それは、エルサの魔法の力の根源は何か?という前作で語られなかった物語であり、また、凡人代表のアナに、姉や国民のために、何ができるのか、という問い直しの話でもある。
そして、姉妹の物語は、両親や祖先の物語に帰着する…。

前作の最大の魅力は、エルサのマイノリティとしての「ありのまま」の孤独を力強く肯定し、解放する点にあった。
手袋を外し、レリゴーし、ようやく自らの魔法の力に相応しい居城を見出したエルサの姿は、世界中の、抑圧され孤独を感じる多くの人の共感を呼んだに違いない。
しかし、前作でエルサは、最終的に氷の城を離れ、アナの待つ王国に帰還してしまう。
それはそれで結構なことだが、エルサにとっての真の幸せが、王国にあったと確信できるだろうか?
大体、なぜエルサは独り強大な力を有しているのか?
今作は、このような、前作後の疑問に答える作品になっている。
まずは、この物語の補完性を、前作ファンとしては楽しむことができる。

音楽の力は、たしかに、前作ほどではない。
ないが、それは前作が神がかって凄すぎたからであり、今作も緻密に構成された音楽の使い方や、イントゥジアンノウンをはじめとする曲の威力は、相変わらず高水準だと思う。

何より、前作が好きで何度も見返しているファンは、アナが、エルサが、オラフ、クリストフ、スヴェンたちのその後のやりとりがたっぷり描かれるだけで、大満足、というものだろう。
クリストフのプロポーズ大作戦!!
ソロ歌唱!!!
アナの、前作以上の大活劇!!!
オラフによる、前作解説!!!!

今作は、いわゆるヴィランが一般的な形で登場する作品でなく(悪役がいるには、いるのだが)、その辺りも新鮮だ。
今作でアナやエルサに立ちはだかるのは、祖先のしがらみであり、自然の猛威だ。
美しい映像もあいまって、障害を乗り越える姉妹の姿は、予想以上に感動的であった。
特にエルサが終盤、躍動するシーンの美しくカッコいいこと!!!
カタルシス!!!!

正直、説明不足でやや飲み込みにくい設定もあったが、個人的には大きなノイズにはならなかった。
総じて満足いく続編だったのではないか。

[テーマ考]
今作は、自分探し、という普遍的テーマを、ド直球で描いた作品である。
自己実現、ルーツの探求と言い換えても良い。

重要なことは、自分を肯定すること、自分の特性を受容することなのだ。
それは、時に、家族やコミュニティに受け入れられること以上に、人が生きるにあたって、大切なことだ。

今作終盤、「なぜ、自分は自分なのか」という真実に到達したエルサの表情!!!
そのエモーションの高まり!!!
アニメーションによる感情表現の到達点と言ってもいいかも知れない。

このようなテーマは、前作がLGBTQの人々の自己肯定の文脈で語られたことに照らすと、理解しやすいかもしれない。

一方で、今作はアナの物語でもある。
困難な時、周りの環境が大きく変わってしまった時、大切なことは、正しいと思えることを一つ一つ諦めずにやっていくことだ。
今作は、アナの言動を通じて、このメッセージを発している。
なすべきことをなすことに、集中すること。
結果は後からついてくる。
ありふれているが、真理であろう。

[まとめ]
大ヒットした前作を補完した、ディズニーアニメーションの最前線を画する続編。

なおアナ雪には、短編アニメもいくつか作られている。
オラフの誕生譚や、アナの誕生日、アレンデールのクリスマスといったラインナップだが、キャラクターがわいわい交流しているのを見るだけで楽しい。
時間もごく短いので、ディズニープラスに入っているアナ雪視聴者なら、一見を勧める。