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トレイン・ミッションのnetfilmsのレビュー・感想・評価

トレイン・ミッション(2018年製作の映画)
3.9
 男はいつも朝6時に起き、身支度を整えたら出発する。彼の住まいは郊外のタリータウンにある。そこからメトロノース鉄道のハドソン線に乗り込み、勤務先となるマンハッタンの金融街にある保険会社へ。鉄の錆びた匂いがするいつもの古い列車から見る風景は牧歌的な田園風景から徐々に都会へと変貌する。読書を日課とする男にはいつも同じ列車に乗る顔馴染みがいた。今の保険会社には勤続10年、愛する妻との間には私立の大学を受験しようとする一人息子がいる。今作でリーアム・ニーソンが演じるマイケル・マコーリーは典型的なアメリカ中産階級のブルー・カラーである。そんな彼の10年間の「ルーティン」がたった今「リストラ」の危機に晒される。自暴自棄になったアイルランド系移民のリーアム・ニーソンは昼間っからビールの中ジョッキで喉を満たす。「銀行に寄ってくれた?」という妻の質問にも事実が言えないまま、虚ろな表情でいつも帰宅に使うのと同じ便に乗り込む。ドイツの学会にやって来た植物学者を演じた『アンノウン』、アルコールに溺れる航空保安官を演じた『フライト・ゲーム』、ブルックリンで殺し屋稼業をする初老の男を演じた『ラン・オールナイト』に続き、実に4度目のタッグとなる監督ジャウム・コレット=セラ×主演リーアム・ニーソンのコンビは、悲しみの帰路に着く中年男性がまたしても事件に巻き込まれる。

 事件の発端となる悪魔の囁きをするジョアンナ(ヴェラ・ファーミガ)の姿には真っ先にアルフレッド・ヒッチコックの『見知らぬ乗客』の交換殺人を思い浮かべずにはいられない。人間行動学者だという彼女の問いに引っ掛かる男が読んでいるのは、世界恐慌時代の故郷オクラホマを追われた焦燥を描いた『怒りの葡萄』に他ならない。明らかに『バルカン超特急』や『オリエント急行殺人事件』へオマージュを捧げた物語は、自身の『フライト・ゲーム』のように、数百人規模の乗客の中からたった1人の真犯人を見つける「巻き込まれ型」サスペンスの様相を呈する。1.盗品の入ったカバンを持ち、2.プリンという偽名を使い、3.コールド・スプリング駅で降りる普段見かけない乗客を探せという「トレイン・ミッション」に選ばれたマイケルは、10年間同じ列車に乗り込み、元刑事だという素性においてもまさに真犯人にとってはうってつけの人物と言える。妻と息子を誘拐され、ウォルト(ジョナサン・バンクス)を死なせてしまったマイケルの贖罪の感情が今作の起点に来るのだが、当日のリストラや携帯電話の紛失など細部の脚本は今ひとつ練られておらず、マイケルの焦燥感には迫らない。幾つかのミスリードもこれまでのジャウム・コレット=セラの映画を体感した者からすればやや定石通りという印象を受けた。電車という密室で起こる舞台劇の撮影監督に選ばれたポール・キャメロンのカメラ位置や構図も凡庸だが、クライマックスの暗戦の佇まいは問答無用に素晴らしかった。
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