お湯

検察側の罪人のお湯のレビュー・感想・評価

検察側の罪人(2018年製作の映画)
4.3
🎫3作目

映像業界に蔓延る木村拓哉像を打ち砕いた時点で、素晴らしい映画だと思う。

キムタクはバラエティ、ドラマ、映画の中でのイメージは、正義感強くて、理屈っぽくて、でも懐が深くてっていう、
完全ヒーローな感じ。

「キムタクはキムタクでしかない」なんて言われてきたけれど、
今作はそのパブリックイメージがあってこその、木村拓哉が演じる最上が完成したんだと思う。

悪の世界に手を突っ込む覚悟のないままに、動揺してる隙をつかれて、手を引っ張られて、あっけなく悪の世界に迷い込んでしまう、ある種のダサさが、
人間的で、とてつもなく魅力的。

拳銃のシーンの表情が、あのキムタクにできるとは思ってませんでした。驚愕。


沖野は完全正義とはいわないものの、
職を投げ打ってまで、真相を突き止める姿はヒーローである。

尊敬していた人物が、ほろほろと信念を崩し壊れていくのを
目の当たりにした時の沖野の表情が、ふっと心が離れてしまう感じ、虚しさ、怒りを共感させるもので、ああ本当に演技うまい。

松重豊の横顔のアップショットがあるんですけど、それが恐ろしすぎる。
大したことのない取り調べなのに、彼が悪の世界に染まりきっていることが分かる。

〇原作はどんなもんか分からないけど、戦争に対する思考の部分はあまり取り入れるべきではないかなと思った。
戦争をするのにも、反対するのにも、それぞれの正義があって、極右も極左も結局は同じようになるというので、今作のテーマに通じてるのは分かるが、
かなりのタブーに触れている気がするのは私だけか?

〇食べるシーンが多くて、お腹空く~。
当たり前のように日常でご飯を食べるように、当たり前のように日常の中に正義と悪との葛藤があり、生きている人間、つまり私たちだって、悪に落ちていくことはあり得る。
というより、悪に落ちる人間であっても、実際に生きていて、隣でご飯を食べているかもしれない。


〇私はレイプシーンを、映像として映し出すことに反対しているので、
そこを全く描かなかったことに、感動した。

描かないのにも関わらず、最上の怒りに、共感できたのは、松倉役の酒向芳と、木村拓哉の演技ありき。
離れた場所で、真実を知る最上を映した演出がすごく好き。

〇ただ、実際の女性ジャーナリストが被害にあい、検察警察の組織ぐるみで隠蔽されたと被害者が主張している事件を、
思わせたセリフがある。

恐らく被害者側にたって、ある種の告発のつもりで、セリフに取り入れているのだと思うんだけど、描き方の誠実さが欠けている。
最上は「引くな引くな」と言うんだけど、
ついでな感じで取り入れるのは失礼すぎる。

メインのセリフの後ろのセリフという扱いが、むっとしてしまうし、ジャーナリストと特定させてしまったのも、消費しすぎ。


同事件を描いたと思われるドラマ「アンナチュラル」は、レイプドラッグだけに焦点を当て、誰にでも起こりうることというスタンスにたった上での、セカンドライフに対する指摘をしている。これだけ誠実に描かなければ、実際の被害者がいる事件を扱ってはいけない。

映像はどう噛み砕いても、ストーリーを消費してしまうことを忘れてはいけないと思う。
またも、女対女の構図が使われたし、実際の検事は確か男性。

〇終わり方は、意図的にザワッとさせてきたなとは感じるけど、正義のゆらぎを描いた作品でのこの終わり方は好き

訳あって、この映画を見るのは2回目だけど、伏線が緻密で、演出だけでなく脚本もすごい。
久しぶりに、心がざわついた。
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