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ミスター・ガラスのマーチのレビュー・感想・評価

ミスター・ガラス(2019年製作の映画)
4.3
この固定概念を軽く飛び越えるシャマランワールドに満ち満ちた映画は、サブカルやコミックやジャンル映画が大好きな私たちのために作られたような映画だった!!
ありがとう、シャマラン!!!泣


【レビュー】

《世界はもうその存在を無視出来ない》

『アンブレイカブル』から19年、『スプリット』から2年、本作の『ミスター・ガラス』をもって、シャマラン19年の集大成であるシャマラン・シネマティック・ユニバース(SCU)堂々の完結!!

ということで、レビューに入りますが、いやもう最高でしたよ! 前作『スプリット』が大好きで2017年のマイベスト10にも入れた私としては、前作のラストで明かされた、これまたシャマランの中でも好きな方の作品『アンブレイカブル』との繋がりに大興奮だったのですが、ついにその2作が本格的に交わることとなった今作が最高にならない訳がないじゃないですか!!笑

シャマランが前作同様に自宅を抵当に入れ
、再びスタジオからの指図を受けない完全個人体制で製作された今作。

まずスゴいのが、やはりなんと言っても最強三大役者の揃い踏みですよね。ヒーローであるダンを演じるブルース・ウィリスは『アンブレイカブル』から19年も経っているのにダンの抱える闇を今作でも適切に表現していたし、勿論アクションシーンはお手の物といった感じでシブい男臭さに溢れていて最高でした! 口の周りにたくわえた白髭の1本1本から滲み出ている“色気”がハンパなかったです… 笑

そして『スプリット』で驚異の演技力を見せつけたジェームズ・マカヴォイ演じるヴィランのビーストですが、今作は前作を凌ぐより強化された怪演が圧巻でした…皆さん絶賛されている通り、とにかくスゴい! 弱点によって目まぐるしく人格交代をさせられてしまうビーストをなんの躊躇もなくスパッスパッと秒で人格を切り替えるマカヴォイが途轍もなく素晴らしかったです。前作以上の人格数を演じているし(ほぼ全て?)、ブランクが2年ほどあったのにも関わらずパトリシアやヘドウィグを再び演じ切るマカヴォイ…やっぱ役者ってすげぇなと思い知らされます。

最後はやっぱり『アンブレイカブル』ぶりにミスター・ガラスを演じたサミュエル・L・ジャクソンですよね! 前半は彼の描き込みが少ないのでなんでタイトル『ミスター・ガラス』なんだろう…と思っていたら後半の展開でなるほどと膝を打ちました。そもそも『アンブレイカブル』はダンの物語だし、『スプリット』はビーストの誕生譚なので、今作が必然的に『ミスター・ガラス』の物語になるというのは明白でしたね。そして、シャマランが時代の流れを読んで完成させたこの三部作は、彼の物語をもって完結。

単純に“ヒーロー vs ヴィラン”の構図でも十分面白いし、昨今巷に溢れているヒーローユニバース作品のプロットは全部そんな感じなのでシャマランも当然それをなぞるのだろうと思っていたら、シャマランはそれを描いた上でさらにその先を描いてみせた。これはマーベルもDCもまだ辿り着けていない極地だし、勧善懲悪の向こう側、更にはこれまでのコミック映画へのアンサーと新たな回答が示されていた。私はもうあの結末にガン泣きでしたよ。笑

しかもMCUがフェーズ3を終えようとしているその前にあの回答(結末)を見せつけるシャマランも人が悪いというか、可愛げがあるというか(笑)、そんなところも含めてシャマランが好きなんですけどね。笑

「誰もが1人の生を尊重されるべき人間で、自分を偽ることなくさらけ出していい。自己を肯定することで自分の世界における役割を発見すればいいんだ。誰もがこの世界に生まれ落ちてきた意味があるんだから。」

私はあのラストシーンと後半の展開に上のメッセージを感じました。これは作品数を重ね続けているマーベルもDCもまだ描けていないし、ヒーローやヴィランを超越して“人間”そのものを描いた本当のヒューマニズムだと。またそれをコミックを通して描いたシャマランは時代の流れを読むのがほんと上手いし、19年前からその時を待って『スプリット』で足掛かりを示し、今回の『ミスター・ガラス』で開花させたのだとしたらなんかもう先見性がありすぎて恐ろしさすらある。だから単なるヒーロー映画だと思って観に来た人は少々面食らうと思うけど、それすらシャマランの狙い通りなんだろうなと思う。

まさしく機は熟したというか、時代がシャマランに追いついた感じ。19年の伏線が回収される一連の流れには強烈な興奮と驚きが詰まっていたし、ツイストに次ぐツイストの展開は“どんでん返し”じゃなくても十分にインパクトあるストーリーテリングができるんだというシャマラン自信の表れでもある。それだからこそあのエモくてカタルシス満載のラストシーンなんだろうし、この『ミスター・ガラス』という映画自体が19年越しのどんでん返しみたいな映画なので、もうシャマランは間接的にどんでん返せるくらいの力量を兼ね備えているということだ…あぁ恐ろしい!笑

まあ案の定というか、いつにも増して遣っ付け的なユルい脚本ではあったのだけれど、シャマランのそれは今に始まったことじゃないし、それを補って余りある演出の素晴らしさや興奮がこの映画にはある。

あと1人の特異キャラに1人ずつサブキャラが付いているのが最高ですよね!!
ダンには息子、ビーストにはケイシー、ガラスには母親。
ダンの息子とガラスの母親は19年越しのキャスト続投なのでそれ自体が大事件だし、劇中で『アンブレイカブル』の映像が流れるのはあまりにもエモい。感傷的な気分にさせられるし、やはり19年という年月の厚みが持つ映像の力は凄まじい…その映像の対比だけで泣きそうだったし(てか泣いた)、シャマランはファンが興奮するツボをほんとよく分かってる!!

ビーストとケイシーの絡みだって『スプリット』で提示された同じ痛みを抱えた失意の者たちという秀逸な要素があるから2人が心を通わせるところは『美女と野獣』もしくはハルクとブラック・ウィドウのような神秘的な童話性があって感動する。

相変わらずかっこいいオープニングクレジット、エンドロールでガラスに映し出された『アンブレイカブル』や『スプリット』の名場面(←感傷に浸るにはあまりにも最高なエンドロール)、意外とダンやビーストやガラスよりもヤバい謎の心理カウンセラー(?)おばさんの登場、冷やっとするホラー的演出…などなど書き連ねはじめたらキリがないほど、(久しぶりに)個人的に好きな部分の多い映画でした。

シャマランは三部作でスパッと完結させて次の作品へ向かう潔さがまたいいですね。しかもマーベルやDCへの敬意を払いながら、それらが辿り着けていない極地にたったの3作で到達してしまうという秀逸さ…次回作も非常に楽しみです、シャマランたまらん!!笑

【p.s.】
今回のシャマランかなり出たがりでしたよね。笑 『アンブレイカブル』『スプリット』での自らの出演シーンの伏線も見事に回収していましたが、そんな尺割く?ってぐらいバッチリ映ってました。笑 そういうところがまた好きなんですけどね〜、演技もやけにオーバーだし。笑

折角だからロビン・ライトにも出演して欲しかったんだけど、都合がつかなかったのかな?…多分、順延した『ハウス・オブ・カード』最終章の撮影とバッティングしてしまったんでしょうね。母親のシーンだけなんか不自然でしたものね。くそっ、ケヴィン・スペイシーめ!!笑

この映画はシャマラン自身のことでもあるし、最終的な結末はこの世に存在し得るファンタジーであり幻想を愛そう、フィクションを信じることを恥じなくていいというシャマランからのメッセージ、その優しさに私は泣いた。というのも、シャマラン自身が映画界では特異な人物であり、個性的な世界を構築している唯一無二の存在だから。


【映画情報】
上映時間:129分
2019年/アメリカ
監督・脚本:M・ナイト・シャマラン
出演:ブルース・ウィリス
ジェームズ・マカヴォイ
サミュエル・L・ジャクソン
サラ・ポールソン
アニャ・テイラー=ジョイ
スペンサー・トリート・クラーク
シャーレイン・ウッダード 他
概要:『アンブレイカブル』『スプリッ
ト』の後日譚を描いたサスペンスス
リラー。自分をスーパーヒーローと
信じて疑わない3人の特異な人物た
ちが集められ、禁断の研究が始ま
る。
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