HicK

リロ&スティッチのHicKのレビュー・感想・評価

リロ&スティッチ(2002年製作の映画)
5.0
《カオスの集合体が織りなすハートフルな世界》 〜当時、犬を飼いはじめまして〜

【斬新な救世主】
90年代のディズニールネサンスと言われる時代が終わり低迷期のさなか、最大のヒットとなった作品。賭けとも言えるスティッチの"キモカワ"キャラデザも魅力だが、他にも「よくこんな設定にしたな」と思ってしまうリロと姉ナニの"笑えない背景"や、さらにSFとファンタジー、ハワイという要素も加えて、カオスな状況をよくまとめている傑作だと思う。

【ボロボロの家族】
破壊的なスティッチ、破滅的な家族。リロとスティッチの共通点は「噛み付く寂しがり屋」。それぞれの孤独感が強い。特にリロとナニの背負った背景は児童保護施設も絡んでくるなど現実味もあり辛すぎる。その上、リロが家でもクラスでも浮いてしまうという設定。スティッチの活躍を描くだけなら、こんなにかわいそうな設定はいらないのだが、その点がこの物語の「より低くより高く」の落差を作り出す要因にもなり、自分が大好きな点。

【だからこそオハナが温かい】
その破滅を逃れる鍵を握るのは互いの「愛」であり「信頼」。ナニは反抗的なリロに無償の愛を与え続ける。リロも反抗的なスティッチに愛を注ぎ続ける。どちらも一方的な愛。しかし、いつしかリロは自身の行動が姉の行動と共通していたと身をもって理解する。スティッチはそんな彼女たちが双方の「愛情の矢印」で結ばれる過程を見届け、家族とは何かを知り、彼もオハナになる。典型的な家族を描いていないからこそ、「家族とは」の本質がちゃんと伝わってくる。まさに「オハナは家族。いつも一緒。何があっても」のセリフ通り。悲観してしまう程どん底だったからこそ温かい。

【スティッチ】
ペットを持つ者にとっては親近感が湧くような存在。自分は当時、犬を飼い始めた時でスティッチに親近感を覚えた。言うことを聞かない。思い通りにならない。破滅的。家具もソファーも靴下も…(笑)。でも可愛い。それでも家族。

劇中でも犬に扮しているので意図的なのかも。親にとっては子供を見ている感覚にも近い。そこが彼の魅力だった。(ちなみに公開年の2003年に買い始めたウチの犬は2021年まで18年間長生きしてくれました。家族愛を教えてくれたスティッチに感謝)。

【ブラックコメディ】
彼の破壊本能に反し、破壊するものが無い大自然の中に放り込まれてフラストレーションが溜まるスティッチが面白すぎる。その結果、鼻くそくったり、訪問者にいきなり本ぶつけたり(笑)。下水管詰まらせたり、標識逆向きにしたり。やっちゃいけない事を堂々とやるってこんなにも痛快なのか。これも今作の幅を広めている要素だろう。

【演出】
背景は水彩画タッチ、また独特な柔らかい物体表現が癒しと温かさを演出している。そしてなによりハワイの音楽、エルヴィス楽曲、神様アラン・シルヴェストリによるオリジナルスコアがよりドラマチックに仕立て上げる。特に家族のピンチのシーンやラストでかかるアランの楽曲は感動的。エルヴィスの「バーニングラブ」や「好きにならずにいられない」もいい余韻に浸らせてくれる。サントラは今でもたまに聞いてるほど。

【総括】
SF、ファンタジー、宇宙人、ハワイ、家族、児童保護、ブラックコメディー、ハワイアン楽曲、エルヴィス、水彩画テイスト、痛み、温かさ、などなど様々なジャンルと感覚が作り出すカオス。だからこそ、今作の魅力も感情もとんでもなく幅が広い。序盤と結末の落差も際立ち、テーマを通して深みもある。感覚で言うと「立体的?」な作品(かなり安い売り文句 笑)。沢山の魅力で溢れ、一つ一つが効果的な傑作であり、今でも大好きな作品のひとつ。素人目で見てもまとめ上げた監督たちの凄さが伝わってくる。

鼻くそを食うディズニーキャラ…好きすぎる。
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