サマセット7

リロ&スティッチのサマセット7のレビュー・感想・評価

リロ&スティッチ(2002年製作の映画)
3.8
監督・脚本は「ヒックとドラゴン」シリーズの監督、脚本、製作総指揮などで知られるクリス・サンダースとディーン・デュボア。

[あらすじ]
エイリアンのマッドサイエンティスト、ジャンバ博士は、違法な遺伝子実験により、試作品626号という凶悪無比な小型の人工生命体を完成させる。
その破壊本能の強さにエイリアンの母船は試作品626号の処分を決定。しかし、隙を見て試作品626号は、近隣の惑星に逃亡する。
他方、ハワイのカウアイ島では、友達のいない「変わり者」の5歳の少女リロのため、彼女を親代わりに育てる姉ナニは、犬を買うことにする。
しかし、リロが買った犬スティッチの正体は、地球に逃げてきた凶暴な試作品626号であった!!ハチャメチな生活が始まる!
やがてリロは、福祉担当者により保護されて姉と引き離される瀬戸際に。他方でスティッチを追うエイリアンたちも姿を現し!!??

[情報]
ウォルトディズニーアニメーションスタジオ製作の42番目の長編アニメーション映画。
ジャンルは、キッズ向けコメディ、SF、アクション、家族ものドラマ。

今作を機に、スティッチというキャラクターが大人気となり、テレビシリーズや続編映画など、さまざまな展開がなされた。
現在でも、スティッチは、ディズニーを代表する人気キャラクターの一つである。
私は、スティッチというキャラクターは知っていたが、正直、どんな作品で出てきたキャラクターで、どういう生物なのかは、知らなかった。

テレビシリーズは、沖縄を舞台にした日本版も作られており、3シーズンにわたって放映されたようである。
こういう展開は、結構レアなのではないか。

スティッチは、青いコアラのようなキャラクターだが、怪力、超耐性、スーパーコンピュータ並みの高い知能を持ち合わせる。
今作冒頭時点では、破壊本能のみに従って行動する、という厄介な生物であった。

ハワイが舞台、というのは長いディズニーの歴史の中でもレアだと思われる(モアナと伝説の海は、南太平洋)。
今作では、フラダンスやファイヤーダンスなど、ハワイ独特の風俗も描かれて見どころとなっている。

監督、脚本の二人は、後にドリームワークスにて、ヒックとドラゴンシリーズでヒットと高い評価を得たコンビ。
今作は2人の監督デビュー作にあたる。

今作は、リトルマーメイドや美女と野獣から始まるディズニールネッサンスの時期と、塔の上のラプンツェルやアナと雪の女王をはじめとする第二のディズニールネッサンスの時期の、ちょうど狭間の、低迷期と呼ばれる時期の作品である。
しかし、今作は、低迷期の中では例外的にヒットし、8000万ドルとアニメーション作品としては比較的低予算で製作され、2億7000万ドルを超える興収を叩き出した。

評論家から比較的高い支持を得ている作品でもある。
今作はアカデミー長編アニメーション部門にノミネートされている。

[見どころ]
他と異なる感性や個性を持った子供の、育児の難しさ!!!
リロとスティッチという、「凶暴な子供」が、いかにして、社会と折り合いをつけ、家族を得るのか、という、深いテーマ性!!
エイリアン絡みのアクションも豊富で、SFアクションとしても楽しい。
ハワイの民族衣装、ダンス、サーフィンなどの、描写の楽しさ!
ハワイに行きたくなる!!
最後には好きにならずにいられない、スティッチのキャラクター!

[感想]
なかなか楽しんだ。

スティッチというキャラクター特化作品と思っていたが、意外にも今作は家族に関する深いテーマを描いた作品である。

序盤のリロの生活の描写はなかなか濃厚だ。
彼女は、エルビス・プレスリーを愛するなど独自の感性をもち、姉を想う優しい心を持った少女だ。
しかし、両親を事故で亡くした経験は深い影を落としている。
彼女は、ルールを守ることが苦手で、他の子供と打ち解けず、キレるとすぐに暴力に訴えてしまう、いわゆる問題児。
その結果、家庭は、福祉局の監視下にあり、姉と引き離されて保護される寸前の状態だ。
若い姉ナニも、一人でリロを養わなくてはならない状況にてんてこ舞いで、リロの扱いには困っている。
大変な状況だが、幼い子供が親の手を焼かせる状況は、万国共通、幼い子供と接したことのある者なら誰もが経験するものだ。
親世代としては、共感できる描写がいくつもある。

そんなリロの状況は、破壊本能の塊であるエイリアン・スティッチを飼ったことで、加速度的に悪くなっていく。
何しろスティッチは、周囲のものを破壊することしか知らず、リロに飼われているのは、追跡者たちを混乱させるために過ぎない。

この2人の「凶暴な子供」と養育者ナニが、どうやって困難な状況を脱して、家族として団結していくのか?
このドラマが今作の軸となる。

ポイントは、スティッチの成長にある。
スティッチは、作中で何度も繰り返し、モンスターとか、破壊本能の化身、と言われる。
しかし、平穏なハワイにはわざわざ壊すべきものもなく、エイリアンの母集団は宇宙の彼方。
スティッチは、その高い知能から、自分は何なのか、と考えを進める。
醜いアヒルの子を引用する描写は丁寧だ。

本能がどうあれ、理性をもって自らの帰属やアイデンティティに悩むことが出来るなら、それは人間の子供と変わらない。
そんなスティッチの心に染み込むのは何か??

終盤はアクション中心だが、テーマとも絡み、爽快だ。
エンディングも多幸感溢れる。
やや何もかも上手く行き過ぎなきらいもあるが、ディズニー作品としてはご都合主義の程度は標準的だろう。

[テーマ考]
今作は、幼児が人間性や社会性を獲得していく上で、大事なことは何か、を描いた作品である。
リロはもちろんのこと、スティッチもまた、「幼児性」のメタファーと理解できる。
今作を代表する「オハナ」に関する名言、そして、リロの親代わりの存在であるナニの成長もまた、テーマを理解する上で重要だ。

子供目線から見てコメディ、アクションとして楽しめる一方で、大人目線で見ると、子育ての真髄のようなテーマが浮き上がる。
近年のディズニーやピクサーの作品ではしばしば見られる多重構造である。

育児に疲れた大人が見ると、癒しや学びがあるかもしれない。

[まとめ]
人気キャラクター・スティッチを売り出したと共に、幼児の人格形成に関する深いテーマ性を含む、ディズニーアニメーションの佳作。

今作を見るまでは、スティッチがエイリアンだったなんて、知らなかった。
てっきりコアラか何かだと。